《xxxHOLiC・戻》第33回
ヤングマガジン:2014年25号:2014.05.19.月.発売
そのことばを最後に,通話は切れた。
「おれを 名前で呼ぶのは…」
つぶやいて,君尋は,携帯を閉じる。すると,花びらを散らし,風が吹き抜けた。
桜の木を見上げる君尋。その君尋を見つめる静。
「お2人とも… 大丈夫?」
女性が声をかけた。
「もし何か問題があるなら その花は…」
右手の花をじっと見て,君尋が言う。
「有難うございます」「でも,もし良かったら この花,頂いていいですか」
あの桜は,じぶんを待っていてくれたんだろう。きっとこの花も自分のために咲いてくれたんだと思う。
その言いようで,女性の不安げな表情は,笑みに変わった。
「…うちの子が 何か貴方の役に立てるのなら とても嬉しいわ」
「有難うございます」
「まだ,分からないけど きっと」「…助けになってくれる と思います」
笑顔で礼を述べてから,まじめな顔でつけ加えた。花は,両手で受けるような持ちかたになっている。
「…大丈夫よ」「貴方がそう信じれば そうなるわ」
「すみません 突然お邪魔して ヘンなこと言って その上,花まで」
「いいえ この桜もだけど うちには 変わったものがいくつかあって」「昔,うち 骨董屋だったのよ 今は閉めてしまったけれど…」
「あ そうだわ」「そのまま持って帰ったら 散ってしまうかもしれないわね」
君尋が学生鞄しかないことを言いかけると,彼女は,待ってねと言って奥に消えた。見送ってから見つめあう君尋と静。沈黙が続く。
「…おまえは…」
口を開いたのは君尋だったが,足音が,その先をナシにした。
「ちょっと大きいのだけれど 変わった子でね きっと,そのお花に合うわ」
君尋は,目を大きく見開いた。
「昔,店にあったものらしいのだけれど… 何か,困らせてしまったかしら」
上から見ると円形で中ほどから下はすぼまった,つり手とあしのついた鳥かごだった。とまり木として小枝が渡してある。つまりながらも,それを知っていると言う君尋。
「え?」
「昔… 届けたんです」「満月の…夜に… 一緒に…」「シリトリして…」
とある店に届けた,あの……。思い起こす君尋を,静は厳しい顔で見つめている。
すごく前からあるのにといぶかる女性に,またヘンなこと言ってと,君尋は謝る。
「…いいえ」「そう… 貴方が運んでくれたのね」「昔,店には 不思議なものがたくさんあって 不思議なひとがたくさん来た と聞いたわ」
桜と同じく,かごも待っていたのかも,とも言う。
「貴方が運んでくれたものを 貴方に渡す」「これも御縁でしょう」
左手でかごをさげて差し出し,君尋も左手でつり手を取った。
「花も 籠も」「連れていってやってくださいな」
「…有難うございます」
言ってから気づき,お礼はと急いで言い添えたが,
「貴方は この子が待っていたお客様よ」「貴方が来てくれたから この子は咲けた それで充分」
かごは,女性のものではないから礼を受け取ってはもらいすぎ,とも答える。
「けれど…」
「では 預かっていて頂戴な」
「また御縁があったら この籠(こ)の行きたいところにいくでしょう」
静にかごをかかえてもらい,君尋は,上側をあけて花を中に入れる。そして,右手でつり手を持ち左手で底を支えてから,言った。
「…確かに」