《xxxHOLiC・戻》第32回
ヤングマガジン:2014年24号:2014.05.12.月.発売
店の庭。侑子が,縁側に腰をかけ,あやとりをしている。
両手の指の間に張り巡らされたひもが,指の動きでほどけ,一重の長いひもに戻った。
「…もつれた糸は 解かなければね」「四月一日」
君尋と静は,立ち寄った民家の庭に張り出したぬれ縁で,向かい合っていた。
一陣の風が,桜の花びらをまたもや散らす。そのとき,君尋の目は,闇の中であの鳥が飛び過ぎるのをとらえた。そして,
“プルルルルルル”
“プルルル”“プルルル…ル”
「おまえに,だな」
静が言う。
「…おれ…に」
君尋は,左手の携帯をじっと見た。右手は,あの花を持ったままである。疑念が,ふっと沸き起こる。
「…おれ… おまえと学校通ってた時」「携帯なんて… 持ってた…か…?」
無言の静に,静も持ってなかったはずだし,ひまわりも学校では使ってなかった,そう話す。
けれども,「自身の携帯」に,静から「ど阿呆」というメールが来たこともあったのだ。学校で3人でお昼をしたあと,目の前でひまわりが携帯を出したのは,最近だ。
意識の奥で,また,鳥が飛びゆく……。
「今は…」「『何時(いつ)』なんだ…?」
“プルルル…”
この家の女性が,いぶかしげに君尋を見ている。静は,視線を落とした。
携帯を持つ手でちょっと眼鏡にさわってから,あらためて携帯を見つめ,
「…そっか」「『違う』んだな」
携帯から視線をはずす。
“プルルルル”
折りたたみ式の携帯を開いた。
「…もしもし」
話しかけてきた相手に,言ったのは,
「待って」「…まだ」「待って欲しい」
相手の反応がなく,君尋は続けた。
「おれはまだ 貴方が誰なのか分からない」「でも 今の自分が いや,今のこの世界が」「『違う』のは分かった」
「けど,何かが足りない」「自分でも分からないけれど 最後の,大事な何かが まだ,ない それだけは分かる」
「だから 待っていて欲しい」
落ち着いた口調で,そう伝えると,相手が応じた。
「…分かった」「でも,どうか無茶はしないで欲しい」「それだけは 約束してくれ」
さらに,ひとこと。
「君尋」