《xxxHOLiC・戻》第31回
ヤングマガジン:2014年21号:2014.04.21.月.発売
“ざっ”
巻き起こった突風が,みごとな花吹雪を作り出す。思わず目を細めた君尋だったが,視界に「異物」を認めてその目を見開いた。1本の枝の途中に縁がなめらかな1対の葉がつき,そこから,穂状(すいじょう)花序のかたちに,開ききった花とつぼみをいくつかつけた花軸が,垂れ下がっているのだ。
「桜とは,別の花ですね」
「ずっと側にいるのに… 気付かなかったわ」
ガラス戸のところまで来た静と女性が声をかわした。
「桜に絡んだりしてるんじゃない…」「木から生えてる…」「いや 混ざってるのか」
つぶやくように,君尋。
その花は,仰ぎ見る君尋の近く,ぬれ縁のひさしより低いところにあった。
ところが,その花軸自体が,枝から離れた。落ちてくる……。そして,君尋が体の前に出した両手の平で,受けとめるかたちになった。
「何の花,だろう」
あらためて間近で見て,君尋が言う。開ききった花びらからあふれだす毛の玉は,無数のおしべなのか。大きい花は,さしわたし数センチもある。
「見たことねぇな」は,静。
「私も初めてみるわ 綺麗だけれど… ちょっと不思議な花ね」
女性は,片手をほおに触れる。その2人も,ぬれ縁に出てきていた。
「まさに『ひょん』な出来事,ね」
「桜の木とかにね 何かの拍子で別の木の枝がくっついて そのまま成長してしまう事があるのですって」
「宿り木,ですか」
静が返す。
接ぎ木でなく,そのように一部だけ別の花が咲いたりすることを「ひょん」と呼んだらしいと女性は話す。「ひょんなこと」は,そこから来るのかと,確かめるように静が言うと,中国では「凶」を「ひょん」と読み,「予期せぬ出来事」という意味から今の使いかたになった,という説もあると……。
「これは 『凶』の意味じゃないと思います」
両手で抱くように持っていた君尋が,花に視線を落としたまま言った。
「これは」「誰かを助ける為に 咲いたんだと思います」
その目と表情からは,彼自身が何か常ならざる状態にあるように見える……。
「…何故 そう思うんだ」
静は問いただした。
「『桜』に咲いたから」
さらに続ける。
「神に愛された娘と 同じ名の…」
「同じ名の?」
「…え…」
君尋は,われに返ったように顔を上げ,目の前の問いを重ねる静を見た
「同じ名の娘,は誰だ」
そのときまたもや“ざっ”と風が吹く。君尋は,後ろを振り返った。