《xxxHOLiC・戻》第27回
ヤングマガジン:2014年13号:2014.02.24.月.発売
客の少女と侑子は,円形テーブルで向かい合っていた。そのわきで控える君尋は,お茶をいれてから,侑子の笑みにも口を結んで緊張している少女に,小声で助け船を出した。
「大丈夫 なんか怖そうだけど そこまでではないから」
少女も,君尋のほうに身を乗り出して,小声で,
「そ,そこまでではないけど やっぱり怖いんですか?」
侑子の目が光る。
「全力で聞こえていてよ」「晩御飯は,さぞ 豪華になるんでしょうねぇ 四月一日」
君尋は,直立不動となり,
「いつも頑張ってるつもりですが!」
立ち上がっておほほほと笑い,
「お酒の内容がよ」
右手を前で振り,
「そっちが豪華じゃない時なんて ありましたか!?」
2人のまわりに,どす黒いものが沸き立つよう……。少女は,まばたきしつつ,感心したように2人のやりとりを見ている。
一転,平静に戻った侑子が話しかけた。
「お茶をどうぞ」「美味しいわよ」
腰をおろしてカップを持つ侑子。君尋の笑顔にも勧められ,カップを手に取るとつぶやいた。
「…ミルクティ」
「蜂蜜 入ってるよ」と,君尋。
ひと口飲む。
「…美味しい」
お茶のおかわりが注がれたところで,侑子が切り出した。
「さて お話 聞かせてもらえるかしら」
「あ,あの」
「今朝 学校行く時に」「知らないひとから お金を交換して欲しいって言われて」
君尋が振り向く。
道の端でうずくまっていた。寝坊してあせっていたので迷ったが,無視して行ったらずっと気になるから声をかけると,「お腹空いた」と言われた。それだけとびっくりしたが,すごくつらそうで……。
「だから」「お弁当をあげたんです」
「お弁当箱ごと?」「あげちゃったら 貴方が困るでしょうに」
侑子のため息が漏れる。
「そしたら すごく喜んで で,御礼したいって」
30円を渡されたが断った。もっとほしいとかでなく,お腹空いて困ってるひとから御礼でも30円とは何か申しわけない感じがしたから。
「『じゃあ,交換しよう』って」
「したの!?」
いきなり,おおいかぶさるように,君尋に顔を近づけられて言われ,ことばにつまる。
「え あ」「え」
「自分の30円と交換した!?」
「持ってる? その交換した30円」
侑子は,静かな調子で尋ねる。
「はい…」
「見せて貰えるかしら」
鞄から取り出したのは,小さな巾着袋だった。
「な,なんだか 一緒にしちゃ駄目な気がして」
息をのむ君尋。
「…開けてみせて」と,侑子。
テーブルの上に出された3枚の十円玉を見た君尋の口からは,
「…あ…れ?」
「ああああ,あの やっぱり,この30円 何かヘンですか!?」
少女は,うろたえて声を上げる。
「ヘンというか」「特別ではあるわね」
「特別ヘンですか!? 何か呪いとか不幸とか!!」
「や…」「むしろ 逆な…」は,君尋。
「もっと不幸 とかですか!?」“わあぁあぁん”
なおさら動転するいっぽうである。
「…貴方 いいひとって言われるでしょう」「お人好しとか 損する性格とか」
「…だから」「なんか呪われちゃったりしたんでしょうか…」
そちらへの恐れで,心はいっぱい。
「それこそ 四月一日が言った通り」「『逆』よ」
侑子は言いきった。