《xxxHOLiC・戻》第26回
ヤングマガジン:2014年12号:2014.02.18.月.発売
(大雪による交通停滞のため多くの地方で02.19.火.発売)
「今日,お休みしなくて大丈夫だったの? 四月一日君」
高校のお昼。木立の間に敷かれたシートでは,君尋とひまわりが,向かい合ってプリンを食べていた。
ちょっとめまいを起こしただけと言いながら,この2人きりの状況に,君尋はにこにこである。頭痛の頻度も聞かれ,いつもじゃなく何かあるとずきっって感じでと,右の人指し指で,頭の横に触れる。
食べかけのプリンのカップを下に置いて,ひまわりは,両腕を前にのばした。左右のほおから耳のあたりを,両手の平でやさしくはさむ。君尋は目を閉じた。
「こうするとね 頭痛がましになるひともいるって 本にあったの」
さらに,無理しないでということばに,してないよと返されると,したいことを止められないのはわかっているけど無理なときは教えてと言いながら,君尋を見下ろすようにひざ立ちして,目を閉じる。
「百目鬼君には言えない事でも わたしには言えそうなら また 電話してね」
「…うん」
君尋は,左手でひまわりの右手に触れ,ありがとうと言ってから,2人でいるといつも食い物目当てのジャマがはいるから電話がいいねと話す。
目をあけた2人は見つめあう。君尋の左手はひまわりの手に触れたままだ。
「忘れないで」「わたしは,それが何でも 四月一日君が決めた事を 応援する」「四月一日君がわたしに言ってくれたように 四月一日君に会えて 本当に幸せだから」
君尋は目を見開く。そのとき,ひまわりの手が離れた。
「ご用,終わったの?」「百目鬼君」
「おう」
静が,近くまで来ていた。
「今日も 四月一日君の御飯とおやつ 美味しいよ」
正座に戻ったひまわりのことばに対し,シートに上がった静の第一声は,
「めし」
「長年連れ添ってても即離婚されそうな横柄さだな,おい!」
重箱の包みをあけながら,君尋は,ぷんぷんしている。
「飯のあと プリンだ」
そのことばには,割り箸の袋を相手に突きつけて宣告する。
「当たり前だ スカタン! プリンは食後だ!」
くすくす笑うひまわり。
「やっぱり,2人の夫婦(めおと)漫才 面白いねー」
「違うんだってば ひまわりちゃーん」
静は,ただ,食べている。
君尋と静が,町なかをやって来る。2人とも,右手に通学鞄とレジ袋,左手に買い物袋。君尋の買い物袋からは,ダイコンが突き出ていた。
「おまえが 亭主関白な旦那みたいに単語でしか喋んねぇから ひまわりちゃんの誤解が解けないんだろうが!!」
「知らん」
むきーっと来た君尋だが,前方の女性に気づき,かけよりながら声をかける。
「あの」
びくっと振り向いた眼鏡の彼女は,ひまわりと同じ制服で,左手に鞄をさげている。同じ高校の生徒らしかった。
「驚かせてごめんね 何か用かな と思って」
「あ,あの 私 私」「店が あるって聞いて それで探して」
「あった?」
「は,はい。」
そこは門の前。中に店が見えていた。
「でも 見つけても,その」「入るのに勇気が」
「大丈夫だよ」「視えているのなら 君は店に入れるという事だから」
きょとんとする彼女を,君尋は手でお先にと促す。
「どうぞ」
「は,はい…」
ドアをあけながら,中をうかがうように呼びかける。
「こ,こんにちは」
それを見ている君尋の後ろ,門のところからは,静が2人を見つめていた。