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戻 第25回

《xxxHOLiC・戻》第25回
  ヤングマガジン:2014年11号:2014.02.10.月.発売
 
「もしもし…」
「…え…?」
縁側で受話器を取った君尋は,今回,相手の声が聞こえてきて,少し驚いた。
ザ…ザザ「良かった」ザ‥「やっと話せて」ザザッ
雑音がひどいが……。何度かけてもつながらないし,つながってもすぐ切れてしまうし,ずっと心配していた。そう話してくる。
「そっちには“ザザ‥”がいないから… “ザ‥”連絡方法はこれしかないし」
聞き取れないところもある。
「あ…の…」
問いかけようとするが……。
「大丈夫か?」「こっちは今… みんな…」
電話の声は一方的だ。
そのとき,体が“ぐら”と来た。
「…っ!」
うめく君尋。受話器を持つ左手が下に落ち,右手を縁側の床につく。受話器が,手から離れて縁側にころがる。
「本当に…“‥ザ…” …なら…」
ザ‥ザ‥「……せずに」ザ…
その場に倒れこんだ君尋の横で,雑音混じりの電話の声は,まだ続いていた。
ザザ‥‥ ザザ…ッ「…きみ…ひろ…」ザザザ‥ ザザ…
 
「…ここ…は」
君尋が目をあけると,またもや,ベッドの中である。
「目が覚めた?」
侑子が,枕元に立って見おろしていた。
「話してたら急に倒れたの」「大丈夫?」
「…じゃ… さっきのは…」
取り合わずに,侑子は左手を君尋の目の上にかぶせた。
「眠りなさい 今は」「そう…」「今はまだ」
「貴方は,本当は」「知っている,筈だから」
眠りに落ちた君尋の顔を見つめて,話す。
今わからなくても,自身の約束したとおり決めたとおりに進めるように,君尋はちゃんと選んでいる,と。
「…たったひとつを除いて」
目を閉じてつぶやいたとき,部屋の戸があいて人影が現れた。
「その たったひとつが」「こいつの一番大事で 一番手放せないものでしょう」
静は,横に並んで立ち,さらに話しつづける。
確かに選んでいる。選んでここにいるが,今回は,
「おれは こいつが」「貴方が望んだ通りを選ぶか …分からないと思ってる」
侑子のまなざしは冷たい。
「それもまた この子の選択」
他人(ひと)からどう見られようと,何が本当に幸せなのかわかるのは自分(ほんにん)だけだから。そう話す彼女に,静は言う。
「前にも聞いたんでしょうね …貴方から」
侑子が,わずかにほほえんだ。静は,右手の平にタマゴをのせ,前に出す。
「貴方も」「貴方が思うときに それを使えばいいのよ」
「それが,あいつの望む所ではなく てもですか」
「それでいいと あたしが貴方に託したのですもの」
タマゴを握った静の右手に,彼女の左手を重ねた。
「どんな出逢いも出来事も」「すべてはヒトの願い故」
「その願いが同じでなかったら」「互いの願いが真逆だったら」
「強いほうの願いが 叶えられる」「それが」「ヒトであるならば」
一瞬視線をそらした静は,あらためて侑子に向きあうと,問いかけた。
「なら」「貴方は…?」
微笑を返した侑子は,視線を君尋へと戻した。