トップページデータノート「XXXHOLiC」ストーリー紹介(コミック版)

戻 第24回

《xxxHOLiC・戻》第24回
  ヤングマガジン:2014年8号:2014.01.20.月.発売
 
「それに 電話が」
君尋は続けた。テーブルの上で火にかけられたポットとカップからは,湯気がただよっている。
「電話が?」と,侑子。
「…かかってきて」
「そうだ 前も,店に」「でも… あの時も さっきも…」
「あの時って?」
「夜雀(ヨスズメ)と山狗(ヤマイヌ)を統べるものからの礼を」「選べと言われて…」「おれ… 選べなくて」
そのとき電話が鳴り,侑子と静を残してその場を離れたのだった。
「でも」「出たら切れてて」「繋がらなくて…」
そのとき,体が“ぐら”と……,君尋は片手で頭をおさえる。
その手を下ろすと,顔には不安の色が表われていた。
「おれ…」「何か 間違ってますか」
「例え何を選んでも 間違いではないわ」「でもね。同時に正しくもない」
すべての選択は過程で,先があり,ひとは自分の行末をずっと選びつづけなければならない。侑子は,淡々とことばをつむぐ。
選ばないと決めてもか,と問う君尋の顔には,冷や汗が浮かんでいる。侑子は,選ばないことを選んだのだと,にべもない。
「おれは…」「何を選んだん でしょう」
まぶたが重くなる。
何を選んだのかわからないということも君尋の選択だ,と侑子。
「そして」「あたし達は 貴方のその選択を」「見守る事を 選んだのよ」
侑子は立ち上がった。
君尋のとろんとした目が閉じられるまで,ほんのいっときだった。
あの小鳥が,飛んでいく。侑子は,君尋の前に立ち,倒れかかるその上半身を両の手で包むようにした。
「だから 待っているわ」「戻るものと戻らないものを 貴方は,本当は知っている筈だから」
「貴方が繋げたその縁(エニシ)は」「巡り巡って また 貴方に戻る」
「すべては ヒトの願い故」「すべては アナタの願い故」
 
“リリリリン”
 
君尋は,目を見開いた。
制服の詰めえりは脱いでカッターとスラックス姿のまま,ベッドで眠っていたのだ。
「…おれ…」「侑子さんと 話してて…」
起き上がる。
「頭が痛くなって… そのまま…」
眼鏡をかけ,そして,
“リリリリン”
「…電話…?」
やっと,気づいた―ずっと鳴りつづけていたのだが。
ベッドのカーテンから出て,歩き出す。
「マル…」「モロ…」
「侑子さん…」
戸をあけて,廊下へ……。
電話は,ずっと鳴りつづけている。
 
「なんで… こんなとこに…」
黒電話が,縁側にじかに置かれていた。しかも,電話機のコードは,塀の外へとのびている。
“リリリリン”
ひざをつき,その電話に手をのばす。
耳に当てた受話器から,そう,今回は声が聞こえてきた。
「…もしもし」