《xxxHOLiC・戻》第23回
ヤングマガジン:2014年6号:2014.01.04.土.発売
君尋は語りつづけた―淡々と。
「それが 色んなひとの手に渡って さらに期待する気持ちは増え続けて」「どこかで その時は来る」「『すごい事』が,起こる」
「そういった場合の定石は 『悪い事が起こる』だな」「この呪いに参加してる殆どのひとが 自分でも意識せずにそう望んでいるから」
「さっきのひとは」
静が尋ねる。
交換された百円玉のイヤな感じに,気づいたんだろう。理由はきっと本人もよくわかっていないが,「何となく嫌だな。気持ち悪いから関わらないほうがいいな」と気づいた。
その視線の先,女性の後ろ姿は,ずいぶん小さくなっていた。
気づいたから呪いを止められた。信心深そうだったが,カンもいいだろう。危険を察知する能力というか,昔のひとには備わっていたかもしれない力が残っている。不用意にまずいものに近寄らない。侵してはならないものに立ち入らない。簡単そうでも,今ではかなり難しい。ああいった呪いでいちばんやっかいなのは拡散だ。面白そうで参加してどんどん広めても,自身がひどい目にあうとは考えない。けれど……。
「関わったのならそこに印(シルシ)が残る その印が縁(エニシ)になる」「繋がった縁は切れない」「相応の対価を 払わなければ」
「…そうか」静
「で」「おまえ 何故,そんなに詳しいんだ」
聞かれて,はっとする君尋。
一瞬,“ぐら”と来て,額を右手で押さえた。
「それは…」「侑子さんの店でバイトしてて…」「色々…見てきて」
ことばにつまる。
「見てきて」
静が繰り返す。
「色々… あって」と,君尋。
「あって」「それから おまえは どうしたんだ」
静は,落ち着いた口調ながら,君尋の記憶を切り開こうとしていた。
「おれは…」「おれは」
その意識の中を,また,尾羽の長いあの小鳥がよぎっていく。
「おれは…選んで…」
君尋は,片手を額にやったまま,必死に考えていたが……。
“プルルルル”
我に返る君尋。
「おまえに だな」
とまどうように,君尋は,鞄から携帯を取り出し,画面を見て耳に持っていく。
“プルルル プルルル プッ…”“ツー ツー”
「どうした」
「…切れた」
侑子がティーカップを手に取った。店の庭にテーブルを出して,お茶の時間である。
「そう」「今度はそんなものが流行ってるのね」
「手を替え,品を替え この手のものは廃れないわね」
菓子をつまみ上げた。君尋は,カッブを持っても,何ごとか考えこんでいる。
「ん おいし」と,いっとき顔をくずすが,すぐ元の顔に戻ると,説明しはじめた。
百円玉3枚の取り替えは,本来の「呪(シュ)」のやり方ではない。3という数字は合ってるが,使うのは十円玉で,銅を使うことに意味があるから百円玉ではちょっと違う。取り替える理由も「すごい事が起こる」ではなく,文字通り「相手の運と自分の運を取り替える」のだ。
「けれど 多くのひとの手を経れば」「それはやはり 呪いにはなるでしょうね」
「何かすごいことが起こることを期待したひとの気持ちを」「纏わりつけたまま」
君尋が,目を見開いた。
「どうかした?」
「…おれ… さっき 同じこといったんです」
「百目鬼に 百円玉の呪いの説明して…」「侑子さんと同じこと…」「同じように…」
「なんでおれ…」「侑子さんのように 答えられたんだろ」