《xxxHOLiC・戻》第10回
ヤングマガジン:2013年28号:2013.06.10.月.発売
「で」
「またおまえは応えちまった,と」
静が君尋に言う。校庭の片すみ,2人の食事が終わりかけていた。
「すごいナチュラルなんだよ ホントにちょっと用事がある みたいな感じで」
「でも」「ちょっとずつ 長くなってる のかな」「言葉が」
君尋がそこまで話したとき,走ってきたような足音がした。
「邪魔してごめんね」
「ひまわりちゃん」
「お昼一緒できなくて ごめんね」と,手を合わす。
「委員会だもん 仕方ないよ」
君尋は,横に置いてあった紙箱を見せた。リボンをかけた包みが3つはいっている。
「ちゃんと,おやつとってあるよー 持って帰って食べてね」
「ありがとう 楽しみだよ!」
そして,静に向き直る。担任に言われて呼びに来たのだった。
立ち上がった静は,
「…持って帰るからな,それ」
包みを指さしてから,背を向けた。
「なんつう図々しさ!!」
わめく君尋。
「四月一日君のつくるもの 何でも本当に美味しいもんね」
ひまわりが笑顔で言う。
「おう」
静はひとこと。
先に立ってかけていくひまわりと,歩いていく静。その姿から目をそらした君尋は,顔を赤らめていた。
「そ それで褒めてるつもりかよ!」
気をとりなおし,後かたづけに取りかかる。
シートをはたいていると,
「ねぇ」「ちょっと 貴方」「お願いが」
「はい」
振り返るが……,いない……。
「…待てよ」「いくらなんでも…」
警戒してるのに「なんで 応えちまうんだよ」
手を口元にやったその心に,不安がよぎる。
日も暮れた住宅街を,君尋は,右手で弁当を入れてあった重箱の風呂敷包みをかかえ,左手で鞄をさげて,歩いていた。
「ほんとに ひとりで帰って大丈夫?」と,ひまわり
「大丈夫 大丈夫」
「ごめんね」「私も百目鬼君も 放課後,委員会で…」
「ひまわりちゃんは 全然悪くないよー」
「でも また聞いたんでしょ あの声」
「う…ん… まぁ」
何してくるわけでなく,声だけで,ほんとに 大丈夫だから。そう,明るく答える。
「じゃ! また明日ー!!」
と,ひまわりと静に手を振って,校舎の廊下で別れたのだった。
{今度こそ,絶対 応えねぇぞ}
{そうだよ}{おれ,ああいうのには いつも応えたりしなかったんだよ}
ぎゅと口を結び,呼びかけられてもひっぱられても無視してたのに,なんであの声は,と心中で反すうする。
そのとき,またもや……。
「ねぇ」「ちょっと,貴方」「お願い」
「はい …って」
「だから,なんでおれ 応えるんだよ!!」
振り向いた目の前,正面すぐ上に,それはあった。
一面どす黒い大小の渦がうごめく,差し渡し何メートルもありそうな,モノが,宙に……。しかも,表面からは,見える側だけで何十本かというヒトの腕がとび出していた。
立ちすくむ君尋。右手の包みが地面に落ちる。
「ねぇ」「戻ってきて」
それらの腕は,君尋を招いているかのようだった。