トップページデータノート「XXXHOLiC」ストーリー紹介(コミック版)

戻 第9回

《xxxHOLiC・戻》第9回
  ヤングマガジン:2013年26号:2013.05.27.月.発売
 
「あの声の事 侑子さんは」
校庭の片すみにあるしきりの両側に蛇口の並んだ手洗い場で,顔を洗いながら静が尋ねた。君尋は,反対側でその流しに背をもたせかけていた。同じトレーニングウェア姿である。
「何も」
「説明もなかったし 気をつけろとも言われなかった」
静は,顔を洗っていた手を止めた。
「やっぱ,テレビだったんだろ」
そう口にした君尋だったが,
{はっ}「って,おれ,テレビに返事したことになるのか!」{はずかしー!!}
静に向き直り,
「ひまわりちゃんに言うなよ! 絶対!」
相手は,ただ顔を洗っている。そして,君尋が首にかけていたタオルを引き抜くと,じぶんの顔をぬぐった。
「自分ので拭け!」
「忘れた」
そのタオルを自身の首にかけて,さらに問う。
「この後 どうしろって」
何も言われなかった。何しにあの部屋に行かされた?
答える君尋は,とまどうばかりだった。
 
そこへ,2人の名前を呼びながら,同じ服装のひまわりがかけてくる。
「なぁに,ひまわりちゃーん」
一転,幸せいっぱいの君尋。
「今日のお弁当 屋上で食べない? いい天気だし」
「いいねー ちょうどサンドイッチだし」
「楽しみ ね,百目鬼君」
「甘いもんは」
「紅茶ゼリーだよ!!」「なんで,そんな偉そうなんだよ! 作ってもらってんだよ おまえは!」
君尋が静の耳元でがなる。
{うるさい}
相手は耳を手でおおった。ひまわりは,にこにこしている。
教室へ戻りかけながら,例のテレビドラマを見た,面白かった,と話す君尋。
犯人間違えたけど,と静につっこまれ,あたふたしはじめたそのとき,その耳元で声がした。
「ねぇ」「ちょっと」
思わず振り向く。
「はい」
 
「で」「また 答えちゃった,と」
店の庭にパラソルとシートを広げ,侑子は,ソファーでくつろいでいた。君尋は,正座してまる盆をひざに立てている。
「その後 何かあった?」
何も,ここに来るまで何もなかった,と答える。
侑子はスプーンを口に運ぶ。
「ん。 いい出来よ 紅茶ゼリー」
「それはどうも」
「って,侑子さん!」「何なんですか あの声!?」
「何だと思う?」
わからないから聞いてる。と君尋。
「…言えるのは」
侑子は,人さし指の先で君尋の唇に触れた。
「あたしからの頼み事は続いているわ」
 
{結局,答えてくれなかったよな 侑子さん}
君尋は,店を出て歩いていた。
「…頼み事って 何なんだろ」
そのとき,後ろのほうから,
「ねぇ,ちょっと」「あなた」
「はい」
振り向いたその先には,だれもいない。ただ,彼の影がのびているだけ……。
 
「四月一日,大丈夫?」
縁側に腰かけている侑子にまとわりついているマルとモロが尋ねた。
「…もつれた糸は」「解かなければね」
両手の指にかけていたあやとりの糸から右の指をはずしてたらし,侑子は言った。