《xxxHOLiC・戻》第6回
ヤングマガジン:2013年21号:2013.04.22.月.発売
同じように,両手に食材のはいった袋,右手には通学鞄もさげて,君尋と静が歩いている。
しかし,君尋は心ここにあらず。「おい」と静に呼びかけられ,驚いて声を上げた。
最初の女性について,侑子がまた来ると言ったなら,待ってればいいと静。しかし,君尋は,けがだらけの彼女とあちこち欠けてひびまではいったストラップの人形を思い浮かべて,心配そう。そんな彼を静は横目で見ている。
「なんだよ どうせ 何も出来ないのにぐだぐだ言ってるばっかだよ,おれは」
いらつく君尋に,静は前を見たまま言う。
「言ってるばっかじゃねぇだろ,おまえは」
「いつでも,な」
2人が店に着くと,並んで迎えたマルとモロが声をそろえた。
「主様にお客様」
「前も来た あのお客様」
いつものテーブルで向かい合う店主と客にお茶の用意をする君尋は,客の前にカップを置こうと彼女を見て,息をのんだ。
「怪我 酷くなってるわね」
侑子がさらりと言う。客の女性も淡々と答える。
「急にバイクが」「あと 看板が落ちてきて」
スーツの下,開襟のブラウス胸元から包帯が見え,左のほおと右のすねも傷があった。
侑子に言われ,携帯をテーブルに置く。ストラップの人形は,ネコのほうは胴にひびまで走り,ウサギのほうはきれいなまま。もうひとりのストラップと同じだった。
君尋は,ただ心配そうに彼女を見ている。
「その2つと同じものをつけた客が来たわ」「貴方の親ゆ」
「親友です」
やはりかぶせて,女性が言う。
「でも, ね」
両手ですくうように持った携帯や彼女のまわりに,黒いドロドロしたものがただよいはじめた。
「親友だからこそ許せない事って ありますよね」
いきなり,その煙のようなものがふくれあがる。
「彼氏が心変わりするなんて 自分が悪いだけなのに なんで私が,あんな事言われなきゃいけないの」
「それも あの程度の女に」
直接何かして,同じレベルだと思われるのもいやだから,ネットでこれを見つけた。
そこまで話したとき,いままできれいなままで傷ひとつなかったほうの,ウサギの人形,その首のあたりで,“ぴしっ”小さな破片がとんだ。
君尋は,ひや汗を浮かべ手を口元にやったが,侑子は,ただ,先を促す。
あの子も同じとこ見てたみたいで,これをくれた。同じことを考えたとわかった。
女性は,にこやかに続ける。
「貰いました 有難うって」
その手元で,また,“ぴし”
「貰っただけ,何もしてません」「会ってもいないし 電話もメールもしてない だから」
「あの子に何かあっても 私,関係ありません」
どす黒いドロドロは,女性のまわりを塗りつくすように広がっていた。
“びしっ”音と衝撃が,ウサギの首を襲う。
「でもね」
笑みが一瞬うす笑いに変わって元に戻ったとき,“ばき”ただならぬ音が響いた。
「呪いって」「呪われるより 呪った本人に返るほうが 大きいんですよね」
ウサギの首は,胴から離れて宙に……。そして,“ごとん”と,床にころがった。
その首をぼう然と見つめる君尋。侑子は,冷然と客を見つめる。
「あ」
女性は,何か気づいたようにつぶやくと,君尋のほうに顔を向けてほほ笑んだ。
「貴方も」「私が何もしなかったって 証明してくれますよね」