トップページデータノート「XXXHOLiC」ストーリー紹介(コミック版)

戻 第7回

《xxxHOLiC・戻》第7回
  ヤングマガジン:2013年24号:2013.05.13.月.発売
 
客の女性は,黒いドロドロした煙のようなものがまわりをおおっていく中で,ほほえみを浮かべて椅子に腰かけていた……。
 
「…何なんですか,あれ」
「必要だからここへ来た,客よ 『親友』と同じ理由でね」
煙管を吸っていた侑子が君尋に答える。静と店の縁側に腰かけていた。2人の間にはワインと料理の皿。空いたまる盆を持ち,きざ〔跪座〕で控える君尋は,また口にする。
「あんな2人が親友なんて…」
「親友,だから」
侑子は,決めつけたあと淡々と語った。
そっくりだったでしょう。笑顔の裏で馬鹿にして,いない所で「あの程度の女」,自分以下だとおとしめることしか考えない。呪って呪われて,その重さをわかっていないところまでそっくり。よいことわざがある;「類は友を呼ぶ」。
ひと息ついて煙管を吸う。
「自分のまわりが下らない人間ばかりだと思うなら」「自分もそうなのかもしれないわね」
「貴方のまわりはどうなのかしら」
振られてとまどう君尋が,目を侑子から静に振ると,見合うかたちに……。
「す…」「少なくとも約1名は 物凄く 気に喰わないっす!!」
“だっ”盆を小脇に,かけ出した。
 
2人になって,静が侑子のグラスにワインを注ぐ。
「…大丈夫よ」侑子
「まだ,ですか」静
「ええ」「まだ,ね」
「でも,その時は来るわ」「必ず」「繋がった縁(エニシ)に導かれ」「巡り巡って また戻る」
静は,右の手の平にのせたものを見つめた。
「その卵も,」「貴方と四月一日の縁が導いて その手にある」
さらに,どんなできごともヒトの願いゆえだが願いが何を招くかは願い手次第と話す。
 
足音がして,静は手の中のものを隠す。君尋が,取っ手つきの大きな角盆を両手で持って戻ってきた。
静の視線が,盆の上,鍋と並んだ小皿に注がれる。
「おれがいなかった間に 悪口とか言ってんじゃねぇだろな! だったら,おまえだけ やんねぇぞ! パエリアもタパスも」
が,さっさとひとつつまんで口にする。
「てめぇっ!!」
「パエリア,食べたかったのよー 楽しみー」侑子
「やらねぇっつってんだろ!」君尋
「悪口,言ってねぇんだから いいだろ」静
「にしたって 行儀悪いだろ!」
「大声で喚(わめ)いてるのも 行儀悪(わり)ぃだろ」
2人のやりとりに,
「本当に,うちは テレビいらないわー 見事な夫婦まんざ」
「違います!!」
侑子にかぶせる君尋。静は,もう,ふたつめ……。
「だから,つまみ喰いすなー!!」
“こん”侑子が,煙草盆のふちで煙管の灰を落とした。
「そんな,息ぴったりの2人に」「頼みたい事があるんだけど」
君尋とタパスを口にくわえたままの静が,侑子を見た。
 
夜。空には三日月から何日か過ぎた月。通学鞄を持った2人が,うらぶれた建物をその門の所からながめていた。
「って, やっぱり,ここ おれが住んでるアパートじゃねぇかよ」
「侑子さんの依頼場所が自分とこって」「なんか ヤだろ!!」
2人して見上げる。
「おれの部屋の隣」「2階の一番端だって 侑子さんが」
その建物は,あちこちひび割れまで走り,かなり古びていた。
隣の住人は,と静が問う。
「分からねぇよ」「つか,このアパート 結構,空き部屋多くて」「住人に会うのも 本当に,たまにって 感じだから」
静が足を踏み出し,「ちょっ!」君尋はあわてて声をかけた。
「侑子さんが 部屋ん中に入れって言ったんだ 行くしかねぇだろ」
「そ,そりゃ そうだけど」
君尋は,微妙な空気をかもしだしているそのアパートを前に,立ちつくしていた。