《xxxHOLiC・戻》第5回
ヤングマガジン:2013年19号:2013.04.08.月.発売
「最初の客が 更に怪我してやって来た,と」
今回は,校舎の階段に男2人並んで腰を下ろしてのお昼である。そう言った静には,彼女の例の人形が,同じ個所,右の目からほおにかけて大きく欠けていたことも,当然のことだった。君尋は,あとからもうひとりも来て,その人形2個も最初の客と同じ所がもっとこわれたのときれいなままのとだったことを,話した。
「侑子さんは」
静に問われて,君尋が続ける。絶対何かあるがいいんですかと言っても,まだ先があるからと言われ,店に来なくなるんじゃないですかって言っても……。
「来るわ」「彼女には,必要だから」
侑子は,ただ,そう言っただけだった。
「こんにちはー」「遅くなってすみません」
君尋が,通学鞄と両手に買い物袋をさげ,店の縁側を走る。と……。
「こんにちは 四月一日」
マルとモロが声をかけてきて,その荷物を両側から奪うように受け取る。
「ありがと マル,モロ。」「侑子さんは またゲームか」「飲酒中か?」
きょとんとした顔をした2人は,声をそろえて答えた。
「主様は,お客様と一緒」
客は2番目の女性だった。テーブルで向かい合っている2人を,君尋は,ドアを少しあけてようすをうかがう。
その後最初の女性は来たかと問われ,侑子はまだだと答え,問い返す。
「どうかして?」
一瞬考えるような目をしてから,相手は笑顔で答えた。
「怪我とか」「どうかなって 思って」
「同じ会社なんでしょう」
「でも,部署 違うし」
「違っても会えるでしょう」「親ゆ」
かぶせて,言いきる。
「親友です」
「でも, ね」
ことばを続け,両の手の平に持ったストラップの人形を見つめる彼女の周囲に,黒いドロドロした煙のようなものが沸き起こったように見え,それがいっきにふくれあがった。
「親友だからこそ許せない事って ありますよね ひとの彼氏とるとか 最悪でしょ」「それも,あの程度の女が」
あざけるような表情になっている。
直接何かして,同じレベルだと思われるのもいやだから,ネットで見つけたこれをあげただけ。何もしてない。そう笑顔になって話す彼女を,黒いドロドロは包みこむほどになっていた。
「会ってもいないし 電話もメールもしてない」「だから,あの子に何かあっても」「私, 関係ないの」
“ぱきん”傷ついた人形の胴に,ひび割れが走る。
たまらず,君尋はばたんとドアを大きくあけ,女性が振り向いた。
「私が何もしなかったって」「証明してくれるひとが,増えた」
「何なんですか あれ!!」
縁側に腰をかけて煙管を吸っている侑子のところに,角盆でグラスに入れた酒と料理を運んできた君尋が,吐き捨てた。
「必要だからここへ来た 客よ」
「『親友』が怪我をしたり酷い目にあった時に 自分は側にいなかった 何も関係がなかったと 証明する人間が 必要だったから」
侑子と盆をはさんで正座をした君尋は,頭に来ているようす。ぺらぺらしゃべってたと言うが,録音していたわけでもないし話しても警察は信じないだろうと,侑子に返される。
「もうひとりのひと‥‥」「大丈夫なんでしょうか」
君尋は,胴にひびまではいった人形を思い起こしていた。
「‥‥来るわ また」「彼女には」「それが,必要だから」
煙をはきながら,侑子は,いつもの表情で言った。