《xxxHOLiC・戻》第4回
ヤングマガジン:2013年18号:2013.04.01.月.発売
「また」「いつの間にか ここに来てて」
テーブルについた女性は,あたりに目をやった。
「その怪我,」「どうしたの」
女性は,駅の階段で転んだと言う。突き飛ばされたのでもなく,混雑していたのでもないのに,自分で転んで,恥ずかしくて。そう話す。
そして,侑子の求めで,鞄から携帯を出す。テーブルに置かれたそれは,ストラップのよごれているほうの人形の,右手と左足が,少し欠けている……。この女性がけがをしているのも……。
「あ…」
君尋は,小さく声をあげた。
「これ どうしたの」
侑子の問いに,
「転んだ時に一緒に欠けたんだと思います」
「…このまま付けてお」
「いいんです」
侑子のことばをさえぎる。
親友がくれたものだからと言いつつ,ストラップを手の平で包むように持ったその顔に,笑みが広がった。
「また飲まずに帰っちゃうし」
カップを見てつぶやくと,そのままでいいと侑子。言いように君尋はとまどうが……。
「主(ヌシ)様 お客様―」
2番目の女性が,マルとモロを従え,はいってきた。
「だから,なんで またここに来るのよ」
携帯を持つ右手から,ストラップが垂れている。君尋は,またも,
「あ…!」
同じよごれている人形の,手足の同じ個所が……。
「同じ所が」「壊れてたの?」
「うん…」
シートには,ひまわりと君尋。きょうのお昼は2人である。
君尋は,その客は転んだりしておらず,携帯を落としたりもしてないらしい,と言う。
「それに…」「やっぱり 片方は綺麗なままだった」
侑子から2つずつ同じものを持っている意味を聞かれ,彼女がどう答えたかも,話す。
「せっかく2種類あったから」
ウサギを指さす。
「こっちが私で」
ネコを指さす。
「そっちが自分だと思って」
「持っててねって」
奇妙な笑みを浮かべて,言ったのだった。
「四月一日君?」
ひまわりが,心配そうに手を伸ばす。
君尋は,うつむいてほおに冷や汗をかいていた。
「…自分のでも,あんまりいい気分じゃないだろうに」
「あげたほうが あんなに汚れて 欠けているのに」「笑顔って…」
「こんにちはー」
「今日,いい鰤(ぶり)ありましたから 鰤しゃぶにしましょうね」「あと 春菊が」
店の玄関で,両手に通学鞄と買いもの袋を持ち,くつを脱ぎかけた君尋は,きいっという音に振り返った。
ドアをあけたのは,先に来たほうの女性。右目に眼帯,右のほおにガーゼと絆創膏,左手にも包帯というありさまだった。さらに,左のほおと首筋にも,傷のあとらしいものが……。
「だ 大丈夫ですか!?」
廊下の奥からは,侑子がこちらを見ていた。