トップページデータノート「XXXHOLiC」ストーリー紹介(コミック版)

第204話

《xxxHOLiC・籠》第204回
  ヤングマガジン:2010年16号:2010.03.20.土.発売
 
「指輪か」と,静。
君尋は,それを相手の右手に落としこんだ。
静は,左の薬指にはめようとして,「小せぇ」とつぶやく。
「全力でぶっとばぞ,てめぇ」
「正確には指ぬきなんだがな」
その君尋の吐き出した煙が流れて向かう塀の上あたりに,静は目をとめた。
「‥‥あの塀の外」「何か」「在(い)るのか」
「あたり」と,君尋。
巨大な異様なモノがそこにうごめいているのだった。
君尋は,右手の煙管をタバコ盆に置くと,指ぬきを左手のひと差し指にはめるよう,指図する。
「さっき薬指にも入らなかったぞ」
「いいから」
なんと,根元まですっと通る。静は,前に突き出した左手でかまえた形そのままに姿をなしていく「弓」を,見つめることになった。
君尋の右手があやしく動き,そのモノが寄りついている塀のあたりで,何かが切れた。その途端……。
穴らしきものを通り,いく筋もの黒い触手のようなものが塀の内になだれこんだ。庭に立つ2人いや君尋に向かってうねりながら突進し,彼を包みこもうとする。眼鏡が飛ぶ。
「四月一日!」
静が言うが早いか弓を引きしぼると,弓をかたち作った気は,さらに矢の形に集まる。
ぱあん。
「矢」が放たれ,命中した。
悲鳴を上げてみるみる縮み消えていく異形のモノ。弓も形がくずれ消えていく。
「祓具(はらいぐ)だ 桃の木で出来てるんだと」
着けたものの力で具現化する,そのカタチは決まっていないが静はやっぱり弓だった。そう話しつつ,君尋は,左腕をふつうに下ろしたままその指を動かす。
塀のあたりで,何かが張り詰めた気配。
「さっきも 何か印を中空に書いてただろう」「結界を切ったな」
静はしぶい顔をした。
「こっち方面の知識が増えるのも善し悪しだねぇ」「おまえがそれ使えるか 確認しようかと思ってな もう結びなおしてある」
君尋は,さらにつけ加えた。
「‥やるよ 誕生日だから」
宝物庫にあったのかと聞かれ,あたりを見回しながら女郎蜘蛛からの対価だと答える。
「紅い真珠を手渡しただけじゃこの指ぬきを譲るには釣り合わないって言われたんだが プラス,おれの血舐めたって事で 説き伏せた」
右目と一緒でそれなりに価値があるらしい。静なら気配で自分にとって良くないものがわかるだろう。実際の弓でも祓えるだろうが,常に側には無理だ。それなら大きさも造作(ツクリ)も持ち歩く許容範囲だろう。そう説明する。
「‥‥射ろよ」「危なくなったら迷わず射ろ」「それが何であっても」
「‥‥おまえでもか」
「おれなら」「‥‥尚更だ」
見つけて拾い上げた眼鏡,レンズは割れていた。
 
君尋が縁側に上がって歩み去ると,静はつぶやいた。
「また ‥‥選ぶんだな」「おれは」
 
宝物庫。
君尋の後ろで,かたんと音がした。振り向くと台の上に箱がある。
「これに容(イ)れろってか」
ふたをあけると,魔法陣の上にまるいレンズの眼鏡が置かれていた。
封印されてたのか,その割には何か自分を待っていたような……。そんな思いをいだきつつ,かけてみて,はっとする。相当強い術がかかっている,害をなそうとするものではなさそう,いや,もっと,守ってくれるような術。そのとき,ふたの裏に侑子の魔法陣と花押があるのに気づいた。
「眼鏡が割れておれがこれを手にとるって 分かってたのか」
レンズが割れたほうの眼鏡を箱に入れる。
「この世に偶然はない すべては必然だから」
ふたが閉じられる。
「‥ですね 侑子さん」