トップページデータノート「XXXHOLiC」ストーリー紹介(コミック版)

第200話

《xxxHOLiC・籠》第200回
  ヤングマガジン:2010年12号:2010.02.22.月.発売
 
「今の‥‥!!」
「飛び降りた音です」
驚く君尋に,女性はふつうの調子で答えた。
「ここに置いてくれたひとが,そこのベランダから飛び降りた音です」
がくぜんとする君尋。
「さっき,貴方が来る前にベランダに出たから もう駄目かなって」
「‥‥何が 駄目だったんですか」
「わたしと居ることです」
自分といると怖くなるからと答え,とまどう君尋が,なぐられるほうがずっと怖いのではと言うと……。
「怖くないですよ」「殴られても変わりませんから」「怪我はしますけど 治りますし」
「でも 治るまではずっと痛いし その時間はやっぱり‥‥」
君尋のことばを彼女の声がさえぎる。
「時間はいいんです」「わたし 歳を取りませんから」
君尋は,立ちつくした。
 
「あのひと 今年で62歳だったから」「会って40年くらいですね」
最初は,いつまでも変わらないと喜んでいたが,何十年変わらないことで怖くなったようで,暴れたりなぐったりしだした。なぐって怖いのがましになるなら,一緒にいてくれるなら,そう思っていたと言う。
 
「もう いいかな」「『普通』にしてなくても」
言いつつ,髪に手をやる。
肩のあたりまでかかっていた髪が,波打つように広がっていく。背たけも越えて伸び広がったとき,床に横たわり,手をついて上半身を起こしたその体には,もう,ひとつの傷もなかった。
 
「貴方は‥‥ 一体‥‥」
人間だったような気がするが,あまりに長い間生きていて忘れた,と言う。
相手を見上げるその目から,真っ赤な涙がほおを伝った。そのしずくが,丸くなる……。
君尋は,思わずつぶやいた。
「紅い‥‥」「‥‥真珠」
手のひらの真珠を見つめながら,彼女は言う。
「何故でしょうね 一緒に居てくれたひとが死ぬと」「こうやって真珠が産まれるんです」
「それは‥‥」「貴方が悲しんでいるからだと思います」
はっと表情を変え,真珠をにぎったこぶしにほおずりをする。
「そう」「わたし まだ ‥‥悲しいって感じられるんだ」
そして,手を君尋のほうへ伸ばす。
「いいんですか」
「約束ですし」「それに 貴方ならいいんです」
「貴方も」「‥‥わたしと同じでしょう」
真珠は,開かれたその手から君尋の手のひらへと,落としこまれた。