《xxxHOLiC・籠》第199回
ヤングマガジン:2010年11号:2010.02.15.月.発売
「‥‥うん」「ごめんね」
「四月一日君が謝る事なんてなんにもないよ 四月一日君が考えてる事は いつもわたしの為だから」「ちゃんと分かってるから」
「それでも」「‥‥ごめん」
ひまわりは,みんなで誕生日を祝いに4月1日だけは必ず行く,約束だときっぱり言った。
「‥‥大好きだよ 四月一日君」
「おれも ひまわりちゃんが大好きだよ」
「九軒か」
受話器を戻した手もそのままに,たたずんでいた君尋に,静が声をかけた。
「おう」「明後日寄れよ ひまわりちゃんに渡して欲しいもんあるから」
頼んだものは台所だと聞いて,君尋は,顔を出したマルとモロに手伝いを頼み,食事の用意をしに行った。
「百目鬼は ひまわりと会ってるのか」
マルやモロといっしょに来て,今は静の肩の上にいるモコナが言った。
「ああ」「知りたがるからな 四月一日の様子を」
彼女は,店には年に1度しか入らないことを,君尋と約束したのだった。
モコナが語る。
「この店には色んな客が来る 願いも色々だ」「宝物庫にあるものも 良いもの,綺麗なものばかりじゃない」「ひまわりに ここは良くない」「とても」
「‥‥そうか」
静は,そこまでの事情は聞いていなかった。モコナが説明する。ひまわりと静の願いをかなえたあと,彼女を招いたのは君尋の誕生日だけだから,侑子でも同じ決めごとをするだろうが,君尋がそれに気づいたのは店を継いで1年くらい,力が強くなってきたからと。
「誕生日祝いに来てた九軒に言ったんだろう もう来ない方がいいって」
静が言うと,モコナはうなずいて続けた。店には来ないよう言ったのだろうが,夢を渡って会うのもひまわりの性質に悪い影響を与えると。となると,まったく会えない。
「九軒が了承しなかった」「だから話し合って1年に1度だけ」「四月一日の誕生日に店で逢うと決めたんだろう」
「そうだ」「百目鬼 その時,一緒にいたのか」
「後で九軒に聞いた」「直接会えるのが1年に1度なら その他のあいつの事を出来るだけ知らせて欲しいと頼まれた」
「九軒はあいつを大切にしている」
静のことばに,モコナが返す。
「四月一日もだ」「少しでも店がひまわりにとって良い状態になるように 覚えた術も全部使ってずっと頑張ってる」「4月1日のために」
きっと全部わかっていて君尋の選択を彼と同様たいせつにすることを選んだと,ひまわりについて話す静に,モコナが尋ねる。
「‥‥百目鬼は?」
少しの間口を閉じてから,静は表情を変えずに答えた。
「‥‥おれもまた 選ぶだけだ」
マンションの上に,少し欠けた月が浮かんでいる。
女性が割れた皿を拾っている後ろに,君尋は立った。
振り返り立ち上がる女性。頭や左のふとももなどにも,包帯を巻いている。
「また 怪我が‥‥」
君尋が気づかう。
「ええ あのひと 力いっぱい殴るから」「また怪我が増えてしまって」
君尋が痛くないかと尋ねると,痛いが怪我しても変わらないからと,答えは意味不明。それも言ったがやめない,それに怪我よりやっぱりだめだったかも,とさらに続け……。
「ご用はあのひとにじゃないんですか」
一瞬口ごもった君尋が,紅い真珠を探していると話すと,女郎蜘蛛に頼まれたのかと言う。
「約束しましたから」「今度 紅い真珠が出来たら あげるって」
「出来たら‥‥?」
「ちょうど良かったです ‥‥ほら」
その指さすほうから,いきなり,がたがたと音がした。驚いて君尋が振り向く。
ドスン,大きな音が響いた。