《xxxHOLiC・籠》第198回
ヤングマガジン:2010年10号:2010.02.08.月.発売
君尋は,思わず後ろを振り返った。
立ち上がった女性が,口を開く。
「後ろ 誰もいないと思います」
{気配を察してるとかじゃない}{このひと おれが視えてる}
あせる君尋。
「あのひとにご用ですか」
「いや‥‥ あの‥‥」
「あの?」
声まで聞こえているのにとまどいつつも,次の夢でこの部屋にまた入れるかどうか,紅い真珠はここにあるからと,君尋は腹をくくった。
「おれは‥‥」
「あのひとのお友達ですか」
あのひととは,この部屋の住人で,自分は置いてもらっているのだと言う。その姿は,開いたえりの内に見える首から胸と何もはいていない足の左すねには,包帯が巻かれ,ほかには救急バンもはってあるなど,あちこち傷だらけ。
「? 怪我してますね」
「そうですね」
「それに この部屋」「どうして‥‥」
「あのひとに あちこち殴ったりしたら,手も足も痛いから やめたほうがいいって 言ってるんですけど」
「‥‥まさか」「貴方のその怪我‥‥」
女性は淡々と答える。
「そう」「だから 殴ったら痛いからやめたほうがって‥‥」
「そんな!!」
君尋は,思わず声を荒げた。
「焦りすぎて 目が覚めちまったか」
そこは,店の居間のソファ。君尋は体を起こした。
夢を渡り,確認した部屋にも入れた。しくじったなら傷を負うはずだがそれもない。女性が見えて話せたのは,探しもののせいか,それとも,と思案するが,障子に影が2つ映っているのに気づいた。
「どうした マル モロ」
ひまわりからの電話を知らせに来たのだった。2人を残し,君尋は部屋を出た。
「こんばんは 四月一日君」
「こんばんは ひまわりちゃん」
口元に笑みが浮かぶ。
「お仕事?」
「うん まあ」「でも,今日は結構起きてたよ 繕いものとかあったし」「ひまわりちゃんは?」
「大学にね」
大学が遠いし寒いからと心配する君尋に,くれた手袋をしてるからと答え,また編んで静に渡しとくと言われると,民俗学部でフィールドワークもあって忙しいのではと,静のことも気づかうひまわりだった。
「辞めたくなるまではやるらしいよ おれのお使い」
「相変わらず仲良しなのね」
「良くないよ! ぜんぜん!」「いつまで経っても!」
「あはは」
「まあ,あいつが何か言い出すまでは こき使うだけこき使っとくよ」
わずかな間を置いて,ひまわりは言った。
「‥‥わたしが,直接渡してもらうのは 無理なのね」