《xxxHOLiC・籠》第197回
ヤングマガジン:2010年9号:2010.02.01.月.発売
静が火鉢でもちを焼いている横で,君尋は,ソファに腰をおろし,着物のつくろいをしていた。
蜘蛛の糸が教えたのは,マンション最上階の角部屋だったという静の報告で,君尋は,かつて侑子と訪れたマンションだと気づいた。パソコンをやめられない女性が住んでいた所だ。
同じ相手か,と聞く静に,最上階じゃなかったと答える。
「郵便受けを確認したが表札は出てなかった 郵便物は詰まってたけどな。」
並べたもちを返しながら,静が説明する。
君尋は,立ち上がると着物をソファにかけ,ニッと笑った。
「場所は分かった」「これで『入(ハイ)れる』な」
床にすわると,キセルを取り,火皿にきざみタバコを詰めて吸いはじめる。
「おれにあれこれ指図されたくはねぇだろ」「さっさとお使い小僧は辞めろよ」
「辞めたくなれば辞める」
もちを見ながら,静が答える。見つめ合う2人。
もちがふくれあがり,はじけた。
「焼けた 酒」
静のことばに,ずっこける君尋。
それでも,立って行きかけたところへ,マルとモロが顔を出した。
「四月一日ー お洗濯もの畳んだよー」
いっしょに来たモコナが,手伝ったと叫ぶが,「遊んでたー」「邪魔してたー」と,2人からあっさり否定される。
「晩酌の量が減る!!」
あせるモコナに,君尋が言い放つ。
「おう 期待通り半分にしてやるよ」
「鬼嫁ー!!」と,モコナ。
マルとモロに熱燗を頼み,「お慈悲をー!」「せめて4倍にー!」と肩にしがみつくモコナも連れて,君尋は出ていった。
部屋には,あぐらをかいた静がひとり。ポケットから取り出したタマゴを手のひらに乗せ,じっと見つめ,そして,にぎりしめた。
時刻が過ぎ,君尋が,その部屋のソファに横になっていた。
一瞬暗くなり,また明るくなった,そこは,別のうすよごれたソファの上。
君尋が起き上がる。目的の家の中だった。
「夢を渡ってとはいえ 無断侵入は」「何度やっても申し訳ない気持ちになるなぁ」
「‥‥確かに あの時の部屋と同じ間取りだ」「けど‥‥」
「なんでこんなに‥‥」「荒れてんだ」
家具は,よごれ,ひっくり返り,割れた食器など,さまざまなものが散乱している。
かたんという音に振り返ると,包帯らしいものを巻いた上にコートを着た素足の女性が,ひざをついていた。
「‥‥って おれの姿は見えないんだ」「これも,何回やっても慣れない‥‥」
板の間から彼女のいる部屋へと足をふみ入れる。
女性が,顔を上げた。目を大きく開いている。そして……。
「‥‥何か」「ご用ですか」
「え?!」
君尋は驚いた。