ヤングマガジン：2008年52号：2008.11.22.土.発売
侑子がかかってきた電話を取ると，占いのおばあさんからのものだった。
近況を尋ねるやりとりのあと，出てきたことばは……。
「君尋君は？」「伝えたい事があったんやけどね」
かつて「安心しい ご両親はちゃんと成仏しとるよ」と君尋に話した，そのことについてだった。
「ご両親は何か大変な事があってこの世にはもうおらんから」あのように話した。しかし，この間君尋が来たときに，違うと思ったと言う。
「君尋君の両親はこの世にはおらんけど別の所におる」
「‥‥ええ」「待っているんです 子供達の事を」侑子が応じた。
「ふたりを信じて」「ずっと」
おばあさんは，君尋がいないのならそれも道筋，今は伝えずともいいということかと得心しつつ，「君尋君にまた遊びにおいでって伝えといてねぇ」と話を終えた。
受話器を置いて侑子がつぶやく。
「今度お邪魔する時には」「全ては終わっているでしょうから」
その侑子が障子をあけると，縁側に遥が腰を下ろしている。
「やあ」「こんばんは」
侑子は笑みを返した。
「こうやってお会いするのは初めてだね」
2人のキセルたばこから煙が立ち上ぼる。
「逢えたことは嬉しいけれど」「遇えるようになった事は ‥‥どうなのかな」
表情を変えない侑子。
「貴方が見守ってきた子供達は」「それぞれ選んで進んで来た」「私の孫もそのひとりだね」
「そろそろ なのかな」
遥はさらにことばを継いだ。
「‥‥願わくば」
黙ったままほほえむ侑子の指先から，蝶が現われる。
「蝶の夢が叶わん事を」
遥のことばをあとに，たばこの煙が揺らぐ中で見上げる2人を残し，蝶は月を目指すかのように夜空を上っていった。