ヤングマガジン:2008年40号:2008.09.01.月.発売
「何か?」不審げな表情に気づいた依頼人が尋ねた。
「あ,いえ すみません」「おっきなお家だなと思って」と,ごまかす君尋。
2人は玄関に向かった……。
雨の学校,階段で弁当を広げている3人組。
「で どうだったの? お料理教室」ひまわりが尋ねた。
「それがさ ちゃんと出来るんだよあのひと」「おれに習わなくても十分だと思うんだけどな」
モコナのつまみぐい阻止のほうが大変だったと話す君尋は,作った料理を聞かれ,
「最初なんで,あんまり難しくないもんをと思って」と,ポリ容器を見せた。ジャガイモの煮転がしだった。
「難しくないの?」
「そうでもないよ」
作る段取りを細かく説明する君尋に,ひまわりはすっかり感心する。
そのとき鐘の音が聞こえてきた。日直だから先にとその場を離れかけた彼女を,君尋は呼び止める。
「ひまわりちゃんシフォンケーキ好きだよね」
「うん」
「料理教室やる家に行く途中でみつけたんだ 今度,一緒に行かない?」
えっという顔をしてちょっと考えたあとの答えは,
「‥うん」「楽しみにしてる」
「おれも」
2人とも満面の笑顔。
「百目鬼君も一緒に行こうね」
「おう」
「じゃあね」
「はーい 後でね」
言いながら手を振りつづけた君尋は,手を下ろすとさっきからひたすら食べている静を見た。
「ったく おまえは本当に良く喰うな」「ほれ これも喰え」
イモの煮転がしをひときれ口に入れた静の動作が,止まった。
「どうした?」
顔をしかめる静,口元に手を持っていく。
「これ‥‥ 作ったのは その料理教室頼んできたひとか」
「あ,ああ」「つか,おれがアレコレ言いながらだけど」
腕前がわからなかったので簡易バージョンにしたが,いつも作っているものと材料の分量も同じで味はそんなに変わらないはずだ,そう説明した君尋はつけ加えた。
「不味かったのかよ」
「‥違う」
「だったら何だよ いっつも止めてもばくばく喰うくせに」
彼は,とまどいながら相手を見つめた。