ヤングマガジン:2008年38号:2008.08.18.月.発売
君尋の話は彼の孫のことだった。
「胃袋4次元ポケットですよ」「弁当も重箱四段平気で喰うし 酒のみのくせに甘いもんも底なしだし」
君の料理がおいしいからだという遙を手で制して,喰いモンならなんでもなんだと言う。
「それは違うよ」「あの子は納得したものしか 口にしないからね」
「納得?」
遙は,自身の行きつけの店によく連れて行ったから味がわかる面もあるが,昔から自分が納得できるものしか口にしたくないんだ,と語る。納得ということばにとまどう君尋。
「‥あ」次の瞬間,肩をたたかれて気がつくと,そこは食事のために広げたシートの上。
「こんなとこで寝てんな 阿呆」と静。
「誰が阿呆だ!」「座った瞬間それかよ! つか,ひまわりちゃんが来るまで開けんじゃねぇ!」
重箱のふたを取った静は,さっさと食べはじめる。
「また聞いちゃいねぇ!!」
ふと顔を上げると蒲公英を連れた……。
「ひまわりちゃん!」「どうしたの そんな所に立って」
「うん 面白いから あたしが行って中断するの勿体ないなって」
「面白くないよう こんな奴とのやりとりなんてー」
「すっごく面白いよ コントみたいで」
侑子の店,食事中の3人。侑子はそのコントが見たかったと言い,モコナはじぶんと2人で漫才をやろうと言いだす始末で,君尋はくさる。
「いいじゃない あの舌の良い百目鬼君がそれ程食べたがってくれて」と侑子。
「舌いいっすか,アレ」
侑子は,持ってくるお酒や手土産もこちらの好みや料理を考えたものだとつけ加えた。
「そういえば ‥‥遙さんが言ってました」
「なぁに?」
「百目鬼は食べる事を納得出来るものしか口にしないって」「最初,好き嫌いかと思ったんですけど‥‥」
「違うわね」「信じられるものしか 食べないってことよ」
「食べるってことはとても大切で幸せで そして,とても怖いことなのよ」
君尋が,書いてもらった地図をたよりに依頼人の家を探していると,
「そこ左に曲がれ」
「え!?」
驚いてわきを見ると,肩にかけたかばんからモコナが顔を出している。
「ほら。約束の時間になっちゃうぞ 歩け歩けー」
「絶対かばんから出るなよ」なんでこいつと一緒に!などと思いながら行き着いたのは,豪邸の前だった。
モコナのへらず口とやりあっていた君尋は,門のあく音にあわててモコナをかばんの中に押しこむ。そして,依頼人の女性のていねいなあいさつに,恐縮してしまう。
玄関へ案内しようとする彼女をあらためて見たそのとき,彼は感じた。
「‥‥あれ?」