ヤングマガジン:2008年42号:2008.09.13.土.発売
庭のテーブルでくつろぐ侑子と黒モコナ。君尋が食べ物を入れた小さなかごを盆に乗せて出てくる。
夕飯前なのにどういう風の吹き回し,と尋ねる侑子に,味をみてもらいたいと答える。
「ジャガイモの煮転がしね うん 美味しいわよ」「いつもどおりのお味よ」
モコナも「うまいぞー!」酒が進むとごきげん。
「‥‥そう 百目鬼君が」
残したあと手をつけなかったと聞いた侑子が言う。
「料理教室の生徒が作ったものでしょ」
「でも,おれの指示どおりだったのに百目鬼が喰いもん残すなんて」
「けど おれ,味見出来ないっていうか ‥‥覚えてねぇし」
思い惑う君尋に,同じように作られても違うものがあると話す侑子。
「料理は,作り方を知っただけで作れるものじゃないでしょう」「他にも必要なものがあるはずよ」
「必要な もの」
つぶやく君尋だったが,煮転がし最後の1個を口に入れた侑子とくやしがるモコナのやりとりで,話は打ち切られた。
煮転がしの追加を当然のように要求するモコナに,おこりながらも「作ってくるよ どうせなら肉じゃがに」
答えて家のほうへ向かう君尋は念を押す。
「ったく,夕食前だからちょっとずつですよ」
「おう! ちょっと,いっぱいな!」「焼酎もいっぱいね!」2人が叫ぶ。
「ちょっとはちょっとです!」
言い返しながらも,空になったかごを見てほほえんだ。
「四月一日の味は 四月一日のお父さんの味だ」
「‥‥ええ そして,遠い血縁の味でもある」
モコナのことばに応じる侑子が思ったのは,片手に白,もう片手に黒のモコナをのせたクロウの姿だった。
再び,依頼人の家のダイニングキッチン。
前回作ったジャガイモの煮転がしのことを君尋が聞くと,
「綺麗に出来てました 教えるのお上手ですね 先生」
今回は,カボチャの春巻と決め,君尋はていねいに指示しながら料理を進めていく。
テーブルをはさんで皿の料理を見る2人。
「綺麗に出来てますね」「なんか,おれ 教える事ってないような気がするんですけど お上手だし」
結婚するのできちんと習っておくことにしたと言う彼女に君尋が言う。
「あの ちょっと味見してみませんか」「今 作ったのは調味料とか基本の量だし せっかく作るんだったらもっと好みの味になったほうがいいですし」
「いいえ」
「わたし 自分が作ったものはたべないので」
君尋は驚いた。