トップページデータノート「XXXHOLiC」ストーリー紹介(コミック版)

戻 第55回

《xxxHOLiC・戻》第55回
  ヤングマガジン:2017年10号:2017.02.06.月.発売
 
「さっきの騒ぎは 例の座敷童のそっくりさんか」
縁側に戻ってきた君尋は,静に問われ,うつむきかげんで人差し指を下あごに触れた。
「…うちの店に来たあと どうにも眠くて」「急いで家に帰ってうたた寝してたら 夢をみたんだと」
説明を続ける。
「『蝶の帯をした美人が 自分を殺そうとした』」
相手のことばを,静は復唱した。
「猫娘の情報もある」「まずは 真偽の程を調べねぇと」
少女が奥で眠っていることも話し,まだ2回目のヨソの家でかと反応した静には,
「おれもそうは思ったんだが すごく怖がってて…」「そのまま帰すのも心配だから 少し休んだらと薦めたら」
「寝ちゃったのか」
言ったモコナは,それではと,むいた豆を入れたボウルを頭にのせ,“しずか〜に”“しずか〜に”台所へと歩き出した。
「気が利くじゃねぇか」
「このモコナの気遣いに 今日の酒は2ランクくらいアップしても良いんだぞ」
ニヤつきながら,運んでいった。
 
「はー 食べた 飲んだー!」「お腹いっぱーい!」
座敷のちゃぶ台の上で,モコナは腹鼓。だが,
「でも,まだ もうちょっと飲みたりないなーっ,みたいな な! 百目鬼」
「そうだな」と,静。
「さんざ喰って飲んだだろう」
君尋の文句もいつものこと。ちゃぶ台の上をはねながら前にやってきて,
「酒は別ものなんだよ! 胃じゃなくて肝臓が頑張るし!」
「おまえ,肝臓あるのかよ」
つっこまれても,その左肩から“ぐいぐいっ”ほおを突き上げ,
「どっちだと思うー?」
「四次元に繋がってねぇなら 在って欲しいぞ」
左手でほうられて,そろえて上向きに出した静の両手の中にころがりこんだ。
「百目鬼は肝臓あるのか?」
「とった覚えはねぇな」
ちゃぶ台に手をついて,立ち上がった君尋が,口を開く。
「ワインとチーズ 切っただけ」「それしか出さねぇぞ」
君尋が歩み去るのを見ている2人……。
「…今日 こっち泊まるか 百目鬼」
「…ああ」「どうなるにせよ いないよりはましだろう」
今度は,右手の平の上から相手を見て,はっきりと言う。
「まし じゃない」「百目鬼はちゃんと四月一日の力になってるし なる」
「…そうか」
その顔に,かすかな笑みがよぎった。
 
君尋が,廊下を歩いている。
「まだ寝てるのかな?」
ところが,その部屋に近づいたとき,中から聞こえてきたのは,苦しそうな声。
「…… う… う,う…」
障子に映った影。あお向けの少女の上半身は,首をつかまれて引き起こされている。そして,その上にのしかかるように,長い髪をたらし,蝶の羽を思わせる帯をした,着物姿のひとの影。少女の首に伸びているのはその腕だった。
驚いた君尋は,障子を勢いよくあけ放つが,そこには,布団から上半身を不自然なかたちに起こした少女がいるだけ……。
起きなおってむせぶ彼女はあとにして,すばやくあたりを見回す。が,何もいない。
やっと少女の前にひざをつき,その両腕をかかえるように自身の手を添える。
「ゆめ…」“ゲホッ”「夢を…みてて」“ゲホ”「そしたら,また あの女のひとが…!」
そこまで言って,上げた顔は,まっ青だった。
「さっき‥‥」「『ゆうこさん』って…」
出てほしくなかったその名前が,君尋の心に,突き刺さる。
「知ってるひとなんですか…!?」「『ゆうこさん』て 誰なんですか!?」
相手の顔をくいいるように見て,少女は叫んだ。