トップページデータノート「XXXHOLiC」ストーリー紹介(コミック版)

戻 第56回

《xxxHOLiC・戻》第56回
  ヤングマガジン:2017年15号:2017.03.13.月.発売
 
「首を絞められた,と」
「……ああ」
静に君尋が答える。座敷の屏風の前で,2人ともあぐらをかいていた。君尋は,さっきから額に右手を当てている。
自身が見たのは障子に映った影だけだと言いつつも,ひと呼吸置いて,
「…侑子さん,だと思った」「けど!」
「侑子さんなら 何故,あんなこと…」「いや それ以前に 侑子さんなのか?」「あんなに捜しても 待ってても いなかったのに」
右手は,額をおおったまま。心の動揺は続いていた。
「入るぞー」
外から声がかかった。
「どうだった」
障子をあけたモコナに尋ねると,やっと,手を額から降ろした。
「すんごい取り乱してた そのうえ モコナみて もっと取り乱した」
「けど話してたら なんかもう怖いのじゃないならいい みたいになって」「モコナのボディを撫でてたら 寝ちゃったよ」
君尋は,ほっとした様子。最先端の癒し系だと大いばりのモコナである。静の右手の平に乗り,左手でなでてもらいながら,
「で どうすんだ あの子」
「家には 帰せない…」「ひとりにしたら また…」
君尋の脳裏に,障子に映ったあの2人の影がよみがえる……。
「腹減った」
唐突に思考を中断させられた。
「モコナ ものすっごく役に立った」「うまいものと酒を飲む権利がある!」
やれやれと思いながらも,すっと立ち上がるが,そこへ,
「百目鬼の分も 用意な!」
「なんで」
「モコナをマッサージで癒す要員! な!」
同意の静は,さっきから,手でモコナを“なでこ”“なでこ”……。
「ほんと そういう時ばっか名コンビだな おまえら」
君尋は,腰に手を当て2人を見下ろしてから,障子をあける。
「まじ ありもんだぞ」
「酒を是非ランクアップ!」と,さらに注文。
「1段階だけな」
あっさり応じて,障子を閉めた。モコナは,口を大きくあけ,
「やったー!」
 
「…おれは 居たほうがいいんだな」
「うん」
静の問いに,モコナが答える。
「モコナも感じた」「あの子から 侑子の残り香」「もし,本当に 侑子なら」「四月一日は 何があっても 何をされても…」「勝てない」
「…だろうな」と,静。
 
空では,鳥が“チチチ”と鳴いている。
「どうかな」
昨夜のチャイナドレスから変わって色無地に角帯姿の君尋が,障子の内に声をかけた。
「は,はい 何とか」
少女の声がする。やがて,
「できたー」
障子を左右に押しあけながら,マルとモロの声が,響く。振りそでに白足袋姿で,少女は立っていた。
「良く似合うね」
着物は初めてという彼女に,君尋は,サイズが合いそうな洋服はないが,着物だと調整できるし慣れると意外と楽だ,そう話したが,
「ここに 居たほうが 良いんですね」
視線が下に振れる。
「…うん 正直,帰っていいとは 言ってあげられない」「出来るだけ不自由ないように するから」
マルとモロも,お手伝いすると笑顔で話す。
「モコナもいるぞ」
飛んできたのを,少女は,両手の平で受けとめて頬ずりする。
そんな様子をじっと見ていた君尋は,心の中で,つぶやいた。
{…侑子さん}