《xxxHOLiC・戻》第54回
ヤングマガジン:2017年4・5合併号:2016.12.26.月.発売
「そんなに似てたのか」
静が尋ねた。縁側であぐらを組み,ざるに入れたソラマメのさやをむいている。君尋は,あけた障子のふちにもたれてすわっている。
「…正直 座敷童と違う所を見つけられなかった」「それに 夢が」
「鳥籠 か」
「確かめたけれど おれが雨童女に渡したものと 同じだった」
「…ひと,だったのか」
「アヤカシの類も憑かれてないし おそらく霊感とかそういうものも ない」「普通の女の子だった」
不思議な夢を見る理由が知りたいという依頼だった。少し時間がほしいこと,それにまた変わったことがあったり夢を見たら教えて,と返答したと,話す。
「座敷童のことは あの子の夢だけじゃなく…」
視線を前方に落としていた君尋は,キセルをくわえた。心には,侑子の姿が浮かぶ。そんな彼を,静が無言で見つめる。その空気をぶちこわした騒々しさのモトは……。
「四月一日ー!」「これ 隠してたなー!」
すっとんできたモコナが頭にのせているのは,ニンニクのような形の小ぶりの酒瓶,文楽の「金舞酒」である。
置いといただけととぼけられて,地団駄を踏んで抗議する。
「蔵の中の棚に隠してた! 黒鋼の刀でつっかい棒して!」
「って,どうやってあの棒とったんだ」
開かないから刀の柄に体当たりしたと知り,君尋は,心配になった。
「戸,壊してねぇだろうな」
舌を出した。丸わかりである。
「罰として」「百目鬼のそれ 手伝え」
立ち上がって言うと,モコナが不満の声をあげた。君尋は,目を細めてにやり。
「酒どころか 飯も抜きに…」
「やりますとも!」
歩み去りながら,君尋は右手を上げた。
「出来上がったら 台所持って来いよ」
歩きながら,君尋は,座敷で正座し,水盤を置いて行った雨童女との水鏡によるやりとりを,思い起こしていた。
「座敷童に 変わりはないわ」「鳥籠の中に入ってからは」「良くもなっていないけど 悪くもなっていない」
「そっちは?」と,聞かれ,
「客が来たことと…」
猫娘のことが心をよぎったが,それは内に納め,
「いえ」「さっきも話したように その客が座敷童にそっくりだったくらいで」
座敷童の今の状況を夢に見ることが何を表しているのか,雨童女にもわからなかった。
突然,映像が“ユラ…”と乱れ,しかし,すぐにおさまる。
水鏡の中の相手は,何かを気にするように横のほうを見て,しばし黙した。
「座敷童の気が乱れてるから こちらの場も乱れてるのよ」「貴方の力でも 長く話すのは難し……」
今度は,水面が波立って映像が消える。水面が落ち着いても,像は消えたままだった。
{雨童女は座敷童の側から離れられない}{この問題は おれが見極めないと,な}
廊下を歩きながら,君尋は,考えていたのだが……。
“どんどん”“どんどん”ドアをたたくすさまじい音に,思考をさえぎられた。
「なんだ」
玄関に回ると,ガラス越しにひとの影。
「どうぞ」
“がちゃっ”ドアがあくと,あの少女が,駆けこんで来た。目を見開き,真っ青な顔で,君尋にすがりつく。
「ゆめ!」「夢で‥‥も!」「蝶の帯でした!!」「すごく綺麗で 髪の長い女のひとが! 私を!!」
必死の形相で,訴える。
「私を殺そうとするんです!!」
そのことばは,君尋を貫いた。