《xxxHOLiC・戻》第51回
ヤングマガジン:2016年26号:2016.05.30.月.発売
「おまえんとこの教授 どうしてもこれを使いたい所が ありそうか」
君尋が,静に尋ねた。
「特には 聞いていないが」
さらに,尋ねる。
「誰からの預かりもんかは」
「学者仲間からだそうだ」
横目で見た小箱の琥珀から,“ぱしゃん”と音が……。君尋の心が,定まった。
「これをうちの店で預かるかわりに 以前から教授が写真みて欲しがってた幽霊画を渡す と交渉しろ」
「おう 電話借りるぞ」
迷いなく立ち上がった静を見上げて,君尋は,あぜん。
「いいのかよ こんな時間に」
「あのひとは平気で 深夜でも,朝でもかけてくる」
静の答えは,歩きながら振り返りもせずにだった。さらに,
「あと もう1本持って来い 上から5番目くらいのやつ」
君尋が,あぐらをかいて瓶をかかえこみ,コルク抜きをねじこんでいるところへ,静が戻ってきた。
「幽霊画と根付(ねつけ)と牡丹燈籠で 手を打つ,と」
栓をなんとか抜いた君尋が言ったのは,
「そう来たか」
「見合わねぇか」
「合ってる所が ほんと おまえん所の教授 喰えねぇ」
相方が手に取ったグラスにブランデーを注ぎながら,ことばを吐き出した。
「明日 持ってけ」
そして,“くい”と自身のグラスをあおる。
「これが『竜の使いの卵』だって 教授に言っていいのか」
「おう 『これが何かを知りたい』ってのが 願いだったからな」「信じる信じないは受けとり手次第 だ」
あっさりした答えである。
「確実に 面白がりはするだろうな」
言って,静は,右の人指し指の先で“こつ…”と小箱の角を軽くたたき,つけ加える。
「使うアテはあるのか」
「まだ はっきりとは分からねぇ」「けれど」
「これも」「あの紅い真珠も」「この店に来た理由(ワケ)が 必ずある」
君尋は,言い切った。
昼間である。
「こんにちはー」
縁側に着流しで腰かけている君尋の前に,“すと”涼しそうな身なりの娘が降り立った。
「久しぶりだな 猫娘」
「ちょっと,別の町にいってたからね」
「情報探しで?」
君尋が,近づいてきた相手ののどに人さし指を当ててやると,目を閉じて笑みを浮かべ,“ごろごろ”とのどを鳴らしながら,
「うん」
ひざの上に横たわるように,猫娘が,うつぶせで上半身を預けると,君尋は,片方の手で,帽子の上からなでていく。
“ごろ ごろごろ”いわせながら,娘は話しかける。
「なでるの うまくなったねー 店主代理」
「そうかい」
軽く応じる君尋。娘は,両手を突っ張り体をそらして叫んだ。
「くやしいけど きもちいいー」
“ごろにゃあ〜ん”