《xxxHOLiC・戻》第50回
ヤングマガジン:2016年23号:2016.05.09.月.発売
「……」
君尋の話したことは,相手を黙らせるにじゅうぶんだった。身を乗り出しかけたまま,何か言おうと口が半開きの雨童女からは,君尋の三白眼が,責めているようにも見えた。
目を閉じ,“ふぅ”と息を吐くと,
「…女郎蜘蛛の言ってた通りね」
「本当に 可愛くなくなったわ」
腕組みをし,いつもの言いかたになっていた。
「お客様方に 鍛えられていますから」
君尋は,薄く笑った。
「…その鳥籠を いただくわ」
「承知しました」
「対価は」
それを聞くと,後ろを振り返り,見ていただきたいものがもうひとつ,と言う。ふすまが開き,現れたマルとモロ。2人がかりでだいじそうに運んできた飾り座布団には,四角い小箱がのっている。
君尋が,礼を言って受け取ると,2人は,“ぱたぱた ぱた”と座敷から出ていった。
「…水音?」
小箱を前にして,雨童女がつぶやく。
「さすが」
君尋が,畳に座布団ごと置いた箱のふたを取ると,“とぷん”中で揺らめくのが……。
「やはり これが何か 知ってるんですね」
「この琥珀の中は 水で満たされている」「どこへ行きたくて店に来たのか 分からなかったんですが」
相手に,小箱を手渡した。
「そのうち 水に関する事がおきて」
ニライカナイ,御嶽(ウタキ)での,一件である。
「その為に使われるのかと思ったけれど」「…違いました」
下に置いた箱をのぞきこみ,水と言っても色々あると,雨童女。
「ええ 色々」「でも これからは 雨の匂いがしたんです」
ふたたび箱を手に取った君尋に,目を閉じて告げる。
「そうよ その中にあるのは 雨水(ウスイ)」
「それも 特別な,ですよね」
雨童女は口をつぐむ。君尋は,琥珀を彼女に見せるように,箱を斜めにしてひざの上にかかえた。
「どう特別なのか 教えていただけませんか」
「何故 知ってると思うの」
はいっているのが雨がなら知らないはずはないのでは;君尋は,うっすら笑みを浮かべて言う。
「…それが対価?」
「はい」
「…商売上手にもなったわね 店主代理」
「お客様に 鍛えられてますので」
にこやかな顔で応じた。
「で?」
静が促した。
夜の店の縁側で,君尋と静は,ブランデーを飲んでいた。2人の間には,琥珀の小箱とカナッペを並べた皿とが置いてある。
「『竜の使いの卵』 だな」「雨を司る竜の眷族(けんぞく)が 中に居る」
君尋は,説明した。
「ほう」
「どの伝手(ツテ)で手にいれたか しらねぇが おまえん所の教授 偶(タマ)にとんでもないモン持ってくるな」
君尋は,面白がっているような笑みを浮かべている。
「で」「どうすればいい」
静は尋ねた。