《xxxHOLiC・戻》第49回
ヤングマガジン:2016年19号:2016.04.11.月.発売
三日月が,天にたたずんでいる。君尋は,店の縁側に腰をかけて待っていた。
“さあっ”
突然,草むらや地面をたたく,雨粒の音がして,たちまち,本降りである。庭に流れ出てくる気を感じて,声をかける。
「いらっしゃい」
目の前に現れたのは,雨童女だった。
「使いが来たわ」
柔らかな光に包まれ,左の手の平から少し浮いて,まるで羽を広げたかのようなかたちに広がっている,結び目のある細ひもの束。それが,“ぱた ぱた”と君尋のそばまで飛んできた。そして,広がっていたのがすぼまって,房の形になった。
君尋は,それを手に取り,えり元につけて垂らした。そして,告げる。
「見て頂きたいものが あります」
「…分かったわ」
雨童女は,答えた。
座敷の中,雨童女は,やはりすのこの上である。向かい合ってすわっている君尋の右脇には,布をかぶせたものが,置いてあった。布の上からは,中央上部が飛び出たつりがね状に見える。
「紅い真珠を 譲ってくれるの」
「いいえ」「代わりに」「お譲りしたいものが あります」
腰を浮かすと,布に手をかけた。
雨童女は,驚いて目をまるくする。そこにあったのは,小枝1本を中に渡してある,下のすぼまった鳥かごだった。
「店に来た理由は ある花を運ぶ『容れ物』 だったんですが」
ただの容れ物とは思えないと,いぶかしがる雨童女。
次元を渡り,大切なものを守れる力を得てここに戻ってきたから。そう,君尋は話す。
「これを お譲りします」
それしかない,という言いかただった。
「何の為に」
雨童女は,あえて尋ねた。
「この中にいれば 守られる」「少なくとも 現状より何かが悪化したり進む事はない」
この中に座敷童をかくまっても根本的な解決にならない;ほしいのは紅い真珠だ。いいつのる相手。
目を閉じて,君尋の顔が下を向く。
「けれど それを渡すには 対価が重すぎる」
「覚悟の上だと 言った筈よ」
強い視線といらだったことばが,返ってきた。
「それで貴方が座敷童以上に苦しんで もし,もう二度と逢えなくなるとしたら あの子が,どれ程辛いかわからない貴方ではないでしょう」
こちらも,しっかり相手を見て,強い調子で話す。
「それでも」
うつむきかげんになって,その口から漏れたのは,彼女の思い。
「それでも 別の道があるのなら 探しましょう」
同じことばで,君尋は,語りかけた。
「待たせる座敷童(あの子)には申し訳ないけれど 貴方がいてくれれば きっと心強い」「おれに会うのが嫌なら 会わなくていい この籠の中で待ってもらっている間に おれが紅い真珠を使う以外の解決方法を探します」