《xxxHOLiC・戻》第41回
ヤングマガジン:2015年26号:2015.05.25.月.発売
“どったん”
「いぇーい!!」
“ばったん”
大きな物音とたいそうなかけ声が,店の外まで響いていた。
右手にはたきを持ち,縦横にはねまわっているモコナに,君尋が冷たく言う。
「それ 暴れてるだけで ほこり舞うばっかじゃねぇか」
「失礼な!」「由緒正しい掃除法 であるぞ」
言いきるモコナの背中を,片手で“ぷらーん”とつまみあげ,顔の前へ。
「由緒より効率だ マル,モロを見習え」
右の親指で,後ろを指す。
「マルのほうがはやーい!」
「モロのほうがはやーい!」
廊下をかけていく2人がそれぞれ押している棒の先は……。
“ガーン”ときたモコナは,はたきを“ポロ…”
「クイックル なんでだ! そこは雑巾だろう!」「様式美だろう!」
体を震わせてなげくも,便利なもんは使えばいいと,目の前に,もこもこした化繊はたきを突きつけられる。
「ぐぬぬぬ! 文明め!」
ともかく,それを持たされ,“すぃーっ”と欄間の前を移動……。
「おお! とれる! くやしい!」
その下にいた君尋の耳に,“ぱしゃん”音が聞こえた。
気配も感じてか,宝物庫の中へはいっていき,例の箱のふたをはずす。
「…やっぱり 動いてるんだな」
琥珀の中に,細長いものが見える。箱を両手で持ち,のぞきこんだ。
「さっきの音… 中… 水,なのか」
箱を置くと,今度は,中身を両手の平に包むように持った。
「まだ何なのか分からないけれど」「『来るべき時に来るべき所へ来る』ものならば おれが『行くべき所へ行ける』ようにする」
それまで店(ここ)で休んでいてくれ,と語りかけると,中のものが“すぃ”と動く。
「…了承してくれた と とっていいのかね」
琥珀を置き,目を移した。そこには,ファイの杖と入れ墨があり,黒鋼の太刀がある。思わずつぶやいた。
「…みんな 無茶をしてないといいけど」
そのとき,
「お客様 来たよー」
入り口の外から,マルとモロの声がかかった。
玄関には,三味線の長袋をかかえた若い女性が立っていた。マルとモロを連れて迎えに出た君尋に,
「こんにちは」
思い出した君尋に,相手が言う。
「貴方は 八百比丘尼(ヤオビクニ)と呼んでいたと」
「女郎蜘蛛は 相変わらずですか」
“こく”と,うなずいた。
客間で,袋から出されたのは,やはり三味線である。女性とはす向かいに正座していた君尋が,それを手に取る。
「お貸ししていた三味線 お戻し頂きました」
なぜ女郎蜘蛛は急に三味線を弾きたがったのか,と言うと,気まぐれはいつもです,と淡々。なかなか気難しいからちゃんと鳴ったか,と尋ねると,最初は全然だったと。
「でも,女郎蜘蛛が『話をつける』といって」「この子とどこかへ行って 戻ってきたら 鳴ってくれるように」
君尋は,あらためて,三味線を確かめる。
「こりゃ,随分良いもん貰ったな」
不審げな彼女に,説明する。
「うちを出た時より」「もっと良い駒に 変わってます」
「女郎蜘蛛は これで懐柔したんでしょう」
目を細めてほほえんだ。