トップページデータノートストーリー紹介【ツバサ−RESERVoir CHRoNiCLE−】

Chapitre.8−神の力

Chapitre.8−神の力
ツバサ−WoRLD CHRoNiCLE−ニライカナイ編 ストーリー紹介
〜いつか、いつでも一緒にいられる日がきたら−−−。〜

ネガイが叶う、ミセ。
横たわった四月一日が、ゆっくりを瞳を開ける。
「大丈夫か。」
モコナ(ラーグ)が声を掛ける。
「おれが夢から醒めたら、皆いつもそう言うな。」
「みんな同じ気持ちだからな。」
表情を緩めて言葉を交わす四月一日に、モコナはおちゃらけを出さずに返す。そんなモコナの気持ちに応えるように、左の掌をその頭に置く。
「さくらちゃんと逢えた。
 集めたものを小狼達に渡した事を伝えられたよ。」
「そうか…。
 安心しただろう、きっと。」
「だといいけれど。
 渡したものたちがどう役に立つのか、正直おれにも分からないものもある。
 その上、モコナ達を通じての連絡は出来ない。
 よな…、今も。」
「おう。」
「それでも、出来る事がある筈だ。
 おれは店(ここ)で、
 おれの出来る事をやる。」
四月一日は、夢の世界で掌に舞い落ちてきたはずの花びらを、宙で握りしめる。
一片の、桜の花びらを。さくらの想いが、形になったものを。

砂楼の都、玖楼国。
夢の世界から戻ったさくらもまた、ゆっくりと瞳を開ける。
「『夢』の中にいたのか。」
心配そうな面持ちで傍に立つのは、彼女の兄、桃矢。彼は、そっとさくらの頭をなで、
「怖い夢じゃなかったか。」
と尋ねる。
さくらは、「ううん」と短く答え、「逢って励まして貰ったの」と答える。
「あのひとはいつも私達を安心させようと、心を配ってくれる。
 わたしは一緒に旅に行けなかったけれど、玖楼国(ここ)で出来る事をやろうと思うの。」
 言葉をつなげるほど、意識が明朗になるさくら。握った掌は、決意の強さ。そんな彼女を、彼はやはり心配そうに見つめる。しかし、彼女はその気持ちを察し、
「大丈夫。
 無茶をして傷つけたら、
 大事に想ってくれる人達がどれ程 辛いか分かっているから。
 …良く、分かってるから。」
と、笑顔で返す。彼もまた、表情を崩して応じる…。
 
 
 
ニライカナイの森を進む4人とモコナ。
黒鋼は、銀龍を鞘に収めることなく、刃先を背中に回したまま先頭を歩く。
この世界で小狼の元にやってきた少女も、黒鋼が示す露骨な敵意を察していた。
「あの、私達が先に歩いては駄目ですか。前が…怖くて…。」
小狼は、黒鋼の真意にはあえて触れず、こう諭した。
「おれは、この世界が君と同じようにしか見えない。」
「同じように視えてはいけないのですか?」
「今はまだ分からないけれど、
 違うように見えるひとが同行している事にも意味があると思う。
 だから、申し訳ないけれどこのまま行かせて欲しい。」
少女は、背後と正面を挟むおどろおどろしい『影』をちらりと見る。やはり、怯えは止まらない。彼女は、胸元で拳を軽く握りしめ、「…では…こうしててもいいですか」と、彼女なりの決意で小狼の右腕に飛び込んだ。
その様子を、後ろから小狼とは違う視界で見るモコナは、「…小狼、大丈夫なのかな」とおそるおそるファイに問いかける。ファイも表情を崩さずに「小狼君が了承しているからなぁ」と答えるものの、複雑な胸中をのぞかせる。

「!!」
突然、先頭を行く黒鋼が、鋭い目で振り返る。
「何かあったのか。」
小狼が駆け寄る。
「…後ろから見られてた」
向き返った黒鋼が答える。
「それはそうだよ!モコナ達、後ろにいてみてたもん!」
モコナは自分を納得させるように、黒鋼に大声で答える。
「……。」
黒鋼は、答えない。
「オレ達以外の気配だった?」
ファイは笑みを消し、黒鋼に尋ねる。
「…今は、感じねぇ。」
「…気をつける。」
言外に含みを持たせつつ交わされる言葉。
とりあえずの難は去ったと見て、「何かニライカナイ来て、黒ぽん忍者なんだよアピール激しいよねー。」とファイは軽口を叩く。黒鋼は、その頭を右掌でギリギリと掴んで応じる。
「こんな所でどうしたの?」
小狼の傍に居る少女を見つけた何人かのニライカナイの島人が、何気なく掛けた言葉。そこに、害意は何も無かった。しかし、彼らとは異なる人の気配を感じとることがなかった黒鋼とファイに、戦慄が走る。
「見つけたの!ほら!
 明るいでしょう!?まるで神様みたい!!」
無邪気に答える少女に、問いかけた島人も
「眩しいねぇ。」
「本当に輝いている。」
「おお、この方は!」
島人は、口々に歓喜を言葉にする。そして、数人だった人の姿はいつしか黒山の人だかりになって小狼を取り囲む。伸ばされる無数の手は、救世主を求める声。
「小狼!」
モコナが叫ぶ。黒鋼とファイも、戦いの構えを見せる。彼らの目には、この状況は尋常ならざる事態である。
「待ってくれ!」
小狼は、両者の理解が相容れないものであることを認識し、同時に一触即発の状況下において氷解させる方策を持たない事を理解していた。
「走って!」
彼は少女の手を取り、救いを求めようとする島人の手を振り払いながら、一目散に走り始める。
森の中をひたすら駈ける4人。その足を止めようと、何羽もの黒い羽根を持つ鳥たちが襲い来る。黒鋼は、大地を強く蹴り、それらをたちまち一刀両断にする。無慈悲な刃に、少女は悲痛な叫びを上げる。なおも、黒鋼は銀龍を握りしめ、太刀を振るう。
「何てことを!!」
少女の叫び声は、届かない。
何百羽、いや、何千羽になるのだろうか。空に渦巻き向かい来る漆黒の羽を持つものを、彼はひたすらに斬り続ける。
 
再び、辺りに静寂が戻る。
銀龍から滴り落ちる血滴。
そして、足下に広がるのは、無数の死骸。
「…酷い」
少女は涙を隠さない。
「何もしてないのに!連れて行って欲しいだけなのに!
 貴方は『セジ(神の力)』をお持ちなんでしょう!?」
この所業を小狼が為したものと捉えた彼女は、問い詰めるようにその肩を叩く。
その瞳に正対する小狼。
次の瞬間…、突然小狼の意識が閉ざされ、倒れ込む。
 
彼は、光の無い世界へ引き入れられる。眼前には、瞳を閉じたまま立つ『小狼』。
二人を隔つ見えない壁に掌を当て、懸命に彼は問いかける。
「小狼…、どこにいるんだ!
 どこにいけば会える!?」
彼の叫びに似た声に、これまで開く事がなかった『小狼』の両目がゆっくりと開く。
そして、一言だけ、答える。
「…御嶽(ウタキ)で…待ってる。」