Chapitre.4−生者は死者と共に
ツバサ−WoRLD CHRoNiCLE−ニライカナイ編 ストーリー紹介
〜遠く離れた地(セカイ)で 旅の無事を祈る。
それがサクラと小狼の約束−。〜
舞い落ちる、ひとひらの桜の花びら。
掌に落ちた花びらを、少女は胸に抱く。
そこは、幾筋もの清らかな水が流れ落ちる、玖楼国の水場。
「祈っている途中で、『夢』に入ってしまったみたいだね。」
そう語りかけるのは、この国の神官、雪兎。「小狼君の…夢を視たのかな?」
「…はい。やっぱり、ニライカナイの異変に…手を貸すことを決めた、と。」
不安げに答える、さくら。その首には、雪兎と同じく、神官の証である星の飾りが掛けられている。
雪兎はその手を取り、柔和な瞳で、彼女の不安を拭う。
「大丈夫。小狼君はちゃんと分かってる。…ここで、無事を祈って待っているひとがいることを。」
「はい」
ニライカナイ。右近は、小狼たちにこの島のあらましと、一つの伝承を語る。
「ここはニライカナイ。遙か東に位置し、豊穣や生命の源であり、神が住む島でもある。
人々はこの島に神が在ると信じ、日々祈りを捧げ生きる。
姫神は、その神とひとを結ぶもの。選ばれた者が一定期間神となって、この島を守る。
ニライカナイにはもう一つの言い伝えがある。
『生者の魂はニライカナイより来て、死者の魂はニライカナイに還る。』
ここは人たちが暮らす場でもあり、死者の為の『根の国』でもある。」
隣に座る姫神は、そこに自らの言葉を継ぎ足した。
「ニライカナイは生者のための場であり、死者のための場でもある。
けれど それは共に在って、共に逢わず。
生と死は隣り合わせ。けれど、交じり合うことはない。
ずっとずっとそうだった。けれど…。」
姫神は、言葉を飲みこんだ。
「あそこだ」
小狼達は、再び使いの狛犬の背にまたがり、空を翔けた。小狼が指し示した先は、一見すると、碧い海と緑の樹々に覆われた小島だった。
小狼は、不安な気持ちを隠さぬまま、黒鋼の方に向き返る。
黒鋼は、無言の中に小狼の表情に見て、彼の問いかけと、懸念を見抜く。そのうえで、
「暇つぶしだ。異界とやらにうまい酒があるかもしれねぇしな。それか強い奴」
と、不敵な笑みを浮かべて払拭する。ファイもまた、
「オレももちろん一緒にいくよー。黒りんが異界の人たちに迷惑かけるかもだしー」
と応じる。
「モコナもいくよ!モコナ離れちゃうと、みんな言葉通じなくなっちゃうかもだし、サクラの代わりにみんなが無茶しないかちゃんとみてるー。」
モコナも重ねる。意見は、揃った。
「行こう。もうひとつの、ニライカナイへ。」
凶兆の源は、島の中央に在る洞窟から発されていた。
「あそこが一番気配が強い。」
「何のだ」
「…強いていうなら、『滅したもの』の。」
黒鋼とのやりとりの中で小狼が発した言葉に、ファイの顔が曇る。
「行きゃあ、わかるだろ。」
「…そうだな、行こう。」
洞窟の中に、移動する。突然、小狼を襲う目眩。次の瞬間、彼らがまたがった狛犬が『解け』、一行は洞窟を満たす潮の中に放り出される。
光を求め、水面に浮き出る小狼。ほどなく、残る仲間も顔を出す。
「大丈夫か。」黒鋼が問いかける。
「ああ」「うんー」小狼とファイが答える。
「でも…」中天を指さすファイ。そこに広がっていたのは、そこにあるはずの洞窟の岩肌でも、洞窟の外に広がるはずの陽光さす青空でもなく、満天の星空だった。
次の瞬間。グン、と海底から3人の体を引き入れる手があった。そこには、無数の触手が伸びる、異形の生物。3人を捉えた触手は、明らかな害意をもって激しく動く。
海中で、自由が利かない状況。それでも、黒鋼は銀龍を左の掌に掴み、そして剣戟を払う。一閃した一太刀は、海底の怪物の図体を見事に刺し貫く−。