Chapitre.3 姫神との対面
ツバサ−WoRLD CHRoNiCLE−ニライカナイ編 ストーリー紹介
〜ほほえみの裏に しなやかさと強さを兼ね備えて−。〜
小狼が天翔る獅子の背中から見たのは、それは豊かなはずのニライカナイの森が枯れ、死の土地へと変わり果てた姿だった。
「小狼君?」
小狼の両肩を持つファイが、呼びかける。我に返る、小狼。すると、先ほど見た風景はなく、元のニライカナイの姿だった。
「いや…、見間違い、だ。」
やがて彼らを乗せた獅子は島の中心にある白い巨塔に着く。塔の上層階に降り立つと、祭りの際に見た二人の侍者が待っていた。
「わざわざ朝早くからすまんなぁ。」
笑顔を浮かべながら、好意的に掛けられた労いの言葉。小狼は、
「呼ばれた理由が知りたい。あと、こちらからも聞きたいことがある」
と、挨拶もなく本題にて切りかける。
「それにはうちのが応えるさ」
白髪の侍者はそう答え、黒髪の侍者に案内を促す。不請顔の者、微笑を浮かべる者、たじろぐ者。表情は様々であったが、一様にみなぎる緊張感を全身で感じていた。
やがて中央の寝所にたどり着く。帳(とばり)が開くと、中に姫神が居た。右手に箸、左手にどんぶり、さらに枕元には幾杯も重ねられた器。思わず驚きの声を上げたモコナに、姫神は「食べる?スバっていうの。」と、屈託無く答える。
「いや、あの、さっき食べた」
とたじろぐ小狼に、姫神はさらに
「どうだった?」
と瞳を輝かせながら問いかける。予想外の展開に、3人はきょとんとする。
「うまかった。」その答えに、さらに表情が輝く姫神。「スバ、おいしいの。でもほかの麺もだいすき!いっしょに食べよう!麺!!」
小狼の両手を取り、子猫のように無垢な笑顔で庭へと繰り出す姫神。
結局、小狼達は姫神に誘われるままに卓を囲み、スバを呼ばれることになった。
「いっただきまーす」
早速麺をすする姫神。
「…まさか麺食わすために呼んだんじゃねぇだろうな…」黒鋼は器を前に警戒心を緩めない。
「同じ鍋からよそって分けたの、見てたろ?」「食べ物に小細工などするか」
侍者の呟きに、姫神はさらに重ねる。
「食べ物に悪いことしちゃだめ。…島のみんなが、一生懸命育てたり獲ってきたりしてくれたものだもの。」
その言葉、表情を見て、小狼は手に箸を取る。「…頂きます」
小狼たちが杯を平らげるころには、張り詰めた空気が少しずつほぐれていた。
「ええっと、お名前きいてもいい?」
モコナの問いかけ。それに白髪の侍者が答える。
「俺が左近、こっちが右近。これの名前は勘弁してくれ。姫神なんでな、一応。」
「真名は隠しているのか」自然と、小狼の口から言葉。姫神も他意無く応える。
「貴方もだろう?」その言葉に、一堂が自然と反応する。
「何故、そう思う?」
「その前に名乗るのが筋だろう。例え、真名でなくとも」黒髪の侍者・右近の言葉に、
「そっちもだよね?さっきの名前、本当の名前じゃないでしょう?」と、ファイも応じる。
………。再び、沈黙した空気が流れる。
「ね!ね!みんなのこと紹介していい?」
そんな場を、明るく変えるモコナ。小狼が応じ、モコナが3人を紹介すると、ようやく場の緊張が解ける。
「改めて、来てくれて有り難う。小狼、黒鋼、ファイ、モコナ」
姫神の謝意に、小狼は「先に質問していいか」と返す。「うん」という返事を聞くと、彼は懐にしまった包みを取り出して見せる。
「この花はおれにだけ降らせたんだな。…この花の名前を知っているか。」
「うん。『桜』、小狼の大切なひとの名前と同じ」
姫神とさくらは、つながった夢の中で出会っていた。その中で、このニライカナイに小狼達が来ることを視(み)、そしてみんなが元気で平和に過ごせるよう祈っていた。しかし、姫神は言葉を継ぐ。「でもそれは、難しくなった。」
小狼は、ここに来る途中で見た眼下の風景。それを姫神に告げると、それは見間違いではなく、島を覆いつつある異変であること、また誰にでも見えるものでもないと答える。
…『黄泉に触れたもの』。生と死の間(はざま)、生きてもいない、死んでもいない。そんな、止まった刻。そこに触れ、戻って来た者だけが、ニライカナイに起こる異変を変えられる。けれど、小狼達は旅人であり、この島とともに生きる者ではない。だから、姫神はニライカナイの未来を夢で視て、この島を守ることを務めとするが、小狼が選ぶ先、そしてニライカナイに起こる異変に関わるか否かを、あえて視ずにいた。
…ニライカナイにこれから起こる異変。それは、夢を通じてさくらも見ていた。そして、強く小狼達の身を案じていた。
「一番大事なもののために、生きる。その為に、選ぶ。みんな、それでいい」
姫神の心に触れた小狼達。そして、決断を下す。
「…おれが今、ここにいることも必然だ。聞こう、ニライカナイに起こっていることを。」