トップページデータノートストーリー紹介【ツバサ−RESERVoir CHRoNiCLE−】

Chapitre.2−灯(あかり)と花(はな)

ツバサ−WoRLD CHRoNiCLE−ニライカナイ編 ストーリー紹介
〜 新しい世界で待っていた 必然の出逢い−。 〜
 「貴方を…待ってた。」
 周囲の喧噪を他所に、しっかりと届く声。…「姫神様」が、直接心に話しかけてきている。小狼は悟った。
 その心の動きをも、相手は捉えた。「そう。聞こえるから、貴方には」
 おれと会うのは、初めての筈だ。…その問いかけに、姫神は答える。
 「うん。でも、貴方をよく知っているひとと会ったから。」
 小狼は、相手の真意を掴みかねていた。
 ほどなく、姫神の左に仕える黒髪の従者が、彼女に耳打ちをする。すると、彼女はそれまで小狼に向けていたのとは異なる瞳で宙へ視線を向け、左手の扇を差し出す。扇に付けられた鈴は清らかな音色を響かせ、空に放たれた灯火は彼女の舞を幻想的に浮かび上がらせる。その舞が起こす風に応えるように、宙に浮かび上がった灯りはさまざまな形の、色とりどりの花となって地上へと舞い降り、人々に歓喜と幸せに満ちた笑顔を届ける。
 「灯(いのり)を献じて、神から花(まもり)を貰う、か。」
 祭りに訪れた民が手にしていた灯りは、姫神への供物だった…。ファイは得心がいった面持ちで、掌の花びらを見つめた。曇りのない心を灯に託しているからこそ、神、もしくはその御使いから賜るものも強くなる−。彼は、怪訝げな表情を残す黒鋼に説明する。
 黒鋼の頭にも、ファイとは異なる形の花たちが、束になって落ちてくる。まるで花冠をかぶったような黒鋼に、「黒鋼、似合わないー!」とモコナは大口を開けて笑う。
 そんな彼らの横で、つくねんと立ち尽くす小狼。しかし、姫神からの贈り物として掌に届けられた花を見て、その表情は一変する。薄紅色の、5枚の花びらを持つ花。その可憐さ、なによりその花の名が持つ響きが、小狼、そして共に旅する者達の瞼に、ひとりの女性の姿を想起させる。
 なぜ、この花が彼の元に届いたのか。…小狼達は、「必然」という名の見えない糸の行く先を求めるかのように、姫神の舞を凝視していた。
 
 翌朝。小狼達は陽光降り注ぐ庭先にテーブルを構え、食事を取る。器には、茹でた『スバ』と滋養が出た出汁、そして一昨日ファイが作った角煮。改めてニライカナイという土地の豊かさを実感する一杯を味わったあと、ファイは宙に浮かぶ小さな来客に声を掛ける。
 「何かご用かな?」
 二体の、小さな子犬にも似た愛らしき存在は、一見するとニライカナイに棲む精霊(キジム)にも見えるが、小狼はより強い力を持つ別の存在と見抜く。すると、二体は念波で小狼達にメッセージを送り届ける。
 「ご招待、ね。」
 「昨日の姫神様からだ。」
 黒鋼は、小狼の方を一寸見る。小狼は一瞬逡巡するが、すぐに答えを出す。
 「…行く。何故おれに桜の花を降らせたのか知りたい。」
 二体の来客は小狼の答えを聞くと、黒鋼よりも身丈が大きな獅子へと姿を変えた。
 猛き獣の背にまたがり、空高く飛翔する小狼達。途中、突風に吹かれてモコナが宙へと投げ出され、それをすかさず掴む黒鋼を見て、小狼は微笑する。が、その表情はすぐに一変する。
 ニライカナイ全土を覆わんとする暗雲。そして、生気を奪われた植物の姿。眼下に広がる、小狼の想像とは異なる世界の姿を目にして…。