ツバサ−WoRLD CHRoNiCLE−ニライカナイ編 ストーリー紹介
〜「店」より紡がれた「願い」は「異なる世界」へと…〜
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「君尋…」
「…おれを名前で呼ぶのは、君だけだったな」
「おれにとっては『君尋』だから…姓で呼ぶ繋がりじゃない。」
額の宝石を通じて異なる世界を繋ぐ、双りのモコナ。そのモコナを両の掌で抱える、小狼と四月一日。
「…あの世界で願いがあるのは、おれだったんだな…」
「おれが頼んだんだ。今いる世界にどうしても必要なものを集めて貰えないかって。…それが、君尋を結局つらい目にあわせてしまった…。」
伏し目がちに話す四月一日に、小狼も引き込まれる。彼は小狼の願いにより、いくつかの品物を集めるために、夢を経て異なる世界に渡った。その先で、彼は出逢う。不可能と知りつつも、再び会うことを欲して病まない人と…。しかし、彼は選択した。彼を待つ人が居る世界、そして、彼がかの人と出逢ったその場所に戻ることを。
「すべての選択は過程で、また先がある。ひとはずっと選び続けなければならない。…自分の行く末を。」
達観した瞳で語る四月一日に、小狼は答える。「そうやって待つ君尋を、心配しているひとがいることを忘れないでくれ。勿論、おれも」
「…ありがとう」四月一日は静かにそう答える。
四月一日がモコナを介して小狼へ送ったものは4つ。2つのハコ、2つの包み。四月一日との話の後、それらを前にして、小狼はつぶやく。「…君尋が記憶を消してまで集め、送ってくれたこれらを、活かさなければな。」
「お話、終わった?」
ちょうど、ファイと黒鋼が戻って来た。「…四月一日君、どうだった?」
四月一日との短いやりとりの中で、節々で彼が見せた表情。それは彼の想いと共に小狼に伝わり、またファイと黒鋼にも伝わる。そんな小狼の眼前に、『ずいっ』と酒甕をかざす黒鋼。「黒鋼ったら、飲んだくれ亭主みたーい」「みたーい」。モコナとファイのボケに、「誰が亭主だ!」とツッコむ黒鋼。コメディのようなやりとりも、長い旅路の中で完全に定着している。「お酒もだけど、果物もいっしょに食べよ。どっちも美味しいからね。」ファイは暖かな笑みを小狼に向ける。
彼らがいるこの国の名は、『ニライカナイ』。大陸と一本の街道で結ばれた島と、さらにいくつかの島嶼でなるこの国は、温暖な気候で美しい海に囲まれた自然豊かな場所である。この場所で、彼らは漁や収穫をして生活の糧を得ながら、彼らと同じく次元を渡るある『旅人』の訪れを待っていた。
「不具合があるんだろう。だったら調整したものを待って替えたほうがいい。」
小狼は黒鋼の左腕をさすりつつ、気遣う。彼の腕は、セレス国で飛王・リードが仕掛けた罠を脱する代償として自ら落としたため、義手を代わりに付けている。ピッフル国で手に入れ、封真が持ってきた義手を。いま、黒鋼が付ける義手は外見上は生身の物と見違えることない精巧な物となっているが、それも封真が手に入れ、彼らとの待ち合わせ場所へ持ってきてくれたからだからだ。その義手に、不具合がある。それを、封真が運び来るのを待っているのである。この、「ニライカナイ」で。
「こんにちわ〜。」
「サンユンだー!」
「姫神様」にお供えした『スバ』という麺を裾分けに来た、あどけない少年。供物は、この地の平和を守る「姫神様」に対する島民の感謝と祈りの形である。その「姫神様」のお祭りが今晩あると、サンユンは教えてくれた。
祭りは多くの人で賑わっていた。老若男女が集い、たくさんの屋台が商う。程なく、「シャーン」と清やかな鈴の音が響きわたる。「姫神様だ!」一斉に人々が振り返り、そして手にした球の灯火を宙に浮かべる。手から放たれた無数のやわらかな光は一つの曳山と、その中で立つ三人の姿を浮かび出す。両袖に立つ、陽と陰の趣を出す長身の男性。そして、中央に立つ、鬢の長さが印象的な小柄な存在、「姫神様」。祭りを前にして広く配る瞳が、突然一つの方向に視線を向ける。その先に居る、小狼。
「…待ってた。」
その一言は、紛うことなく彼の元へ届く。