トップページデータノートストーリー紹介【ツバサ−RESERVoir CHRoNiCLE−】

Chapitre_5−この先に何が待とうとも

Chapitre_5−この先に何が待とうとも
ツバサ−WoRLD CHRoNiCLE−ニライカナイ編 ストーリー紹介
〜強き意志(おもい)を、力に変えて−。〜

一撃で、海底の怪物を仕留めた黒鋼。しかし、一息つくかつかぬかの間に、今度は鋭い牙を持つ異形の魚が、大挙して水面を跳ねながら押し寄せる。
「海の上じゃ不利だ!浜に上がろう!」
懸命に泳ぎ逃げる3人。あと少しで敵が追いつかんとするところで、ようやく地に足が付く場所にたどり着く。
敵は、浅瀬に動きを阻まれ、もがいていた。
なんとか、難を逃れたようだった。
「しかし、なんでいきなり夜になってんだ」
ようやく疑問を口に出来た黒鋼。
「『生者の魂はニライカナイより来て、死者の魂はニライカナイに還る』」
「さっきまでいたニライカナイとは、また別の世界。ってことだろうね」
小狼とファイは、互いに推測を口にする。
「修羅ノ国と夜魔ノ国みたいに?」モコナが尋ねる。
「まだ、わからない。けど、おれが一緒に『視て』いたあの世界とは、違う気がする」
瞳を閉じ、静かに答える小狼。他の2人とモコナも、黙ってその姿を見る。
程なく、黒鋼が沈黙を破る一言をつぶやく。
「…突っ立っててもしょうがねぇだろ。とりあえず浜から離れるぞ」
「できたら服も着替えたいしねー。」ファイも同調する。
「あと、酒な。」
「もう、黒んたの体って水分の殆どお酒になってるんじゃないのー」
軽口を交わしつつ、島の奥へと足を踏み出す黒鋼とファイ。
魔物達が去った浜辺は、さざ波の音を取り戻す。
そんな音の中に、林の茂みに身を潜めつつ、彼らを追尾する者が残す音が紛れ込む…。

闇夜の森。星のきらめきのみを灯火とするには心許ない。
「…雷火」
囁くような小声で、小狼が魔術で光の玉を出す。それは「灯りに気づいて害をなすものが寄ってくるかもしれないから」と、小さなものだった。
その灯火が、一軒のあばら屋を照らす。ひとの気配は感じないが、何かこの世界を知る手がかりがあるかもしれない…と、3人はそこに足を踏み入れる。
「!?」
3人は、驚愕した。中に、フードを被ったひとりの「ひと」の姿を見つけたからだ。
「きれいなひとー!」モコナは、彼の人の端麗な容姿にも感嘆の声を上げる。
「ありがとう。それから、ニライカナイへようこそ。『表』のニライカナイから来た旅人達」
にこやかな笑みを浮かべながら応じるあばら屋の主。小狼達三人は、警戒の表情を隠さない。
「ということは、ここは『裏』なのか」小狼は問いかける。
「分かりやすくそう言っただけで、どちらもニライカナイだよ。
 そして、ここは『間』だ。
 同じだけど違う、もうひとつのニライカナイへ渡る為に、しなければならないことがあるから」
彼はそう答えながら、右の人差し指で二つの珠を持つ神のレリーフを示す。
「冥界へ渡る為の関所のようなものか。」
「君の世界ではそう言うのかな、『小狼』。」
「名前を…」
小狼は当惑する。
「知っているよ。ニライカナイで、そう名乗ったのなら。届くから」
その言葉に、ファイ、黒鋼の表情にも戦慄が走る。
「そう警戒しないで。真名ではないんだから」
「…それも知っているのか。」
「こちらばかりが知っているのは公平ではないね。
 『孔雀』と読んでくれればいいよ。」
「それも偽名かなぁ?」
ファイもやや平静心を取り戻し、いつもの笑みで覆った面持ちで問いかける。
「ただの遊び人だよ。名前も遊び。」
孔雀の素性、真意が、なおも掴みかねる小狼。なおもその言葉が信じるに足りるものか見極めんと、彼はまっすぐに孔雀の方を凝視する。
そんな小狼に決断を促さんと、「さて、どうする?」と孔雀が重ねる。
「もうひとつのニライカナイへ渡る為に、しなければならないことを教えてくれ。」
「あちらで、何が待っているうかわからないのに?」
「何が待っていても、おれが出来る事をする」
まっすぐな小狼の瞳、そして回答。それを聞いた孔雀は得心し、
「…それが分かっているのなら、良いだろう。
 渡り銭を払ってね。」
すっと差し出された左手。一同の財布を預かるファイは、懐をまさぐる。が、どこにも無い。
「さっき海に墜落したときに落としちゃったかもー。」
表情が凍る黒鋼。次の瞬間、ファイの頭をわしづかみにする彼に、孔雀はツッコミを入れるが如く
「『表』のものは持ち込めないから。」
といなす。
「お金がないとどうなるの?」モコナの素朴な質問に、
「あっちにいけない。」あくまでにこやかに答える孔雀。
「えええええええ!?」
ベクトルが異なる驚きの渦の中で、小狼は一人冷静だった。
自らの懐から巾着を取り出し、その中にある三枚の十円玉を左の掌に移す。
驚いたのは、孔雀の方だった。
「すごいものを持ってるね。『幸運』が込められてる。それも強力な。
 小狼が術で造ったのかな?」
小狼は、このコインを得るために支払った四月一日の『対価』に思いを馳せ、素直に
「…いや、譲り受けた。」
と答える。
「渡し銭には十分だ。
 その扉に触れればもうひとつのニライカナイだよ。」
ファイが右手をかざすと、扉は強い光を放ち出す。
「ありがとう。」
「どういたしまして。」
短い礼を交わした後、小狼、黒鋼もまた掌をかざす。
別れ際に、孔雀が呟くように語る。
「…『裏』に、求めるものが居るかもしれない。
 選択を間違えてはいけないよ。小狼」
「え?」
次の瞬間。扉は一層強く輝くや、三人をその先の世界へ導く。
あとに残されたのは、孔雀と、小狼が放った雷火の灯火。そして、屋根裏から彼らの姿を覗き見る追跡者の眼差し…。

扉の先の世界、『裏』のニライカナイ。
小狼は、ゆっくりと目を開ける。
そこは一面の花と蝶が舞い、うららかな陽差し指す世界。
「『表』でみたあの枯れ木達はなんだったんだ?」
想像とあまりに乖離した光景に、思わず唖然とする。
ふと横を見ると、ひとりの老婆が歩いている。
「ちょっと話を…」
小走りに駆け出す小狼。
「馬鹿野郎!」
全力で、その体を引き留める黒鋼。その右手には、鞘から抜かれた銀龍。ファイも、魔法の詠唱を始めている。二人の視線が向かう先は、その老婆だった。
「ここ何、こわい!!」モコナは涙を浮かべて身をおののかせる。
「え…?」
小狼は、眼前の光景に目を疑った…。