「魔女は蘇らねばならんのだ!!
それが!
それがクロウを超える唯一の証!」
飛王の叫びが谺(こだま)する。
死の淵にあった侑子を、蘇らせること。「クロウすらできなかった」禁断の術を成し遂げることは、すなわちクロウの力を超えたことを意味する。煮えたぎる、マグマのようなライバル心。それが、飛王を突き動かしてきた原動力だった。彼は、強大な魔力と研究心、そして他者の犠牲を顧みず、たじろぐことのない目標を持って今日まで歩んできた。それゆえ目的達成の対象となる「侑子」の死は、彼にとって到底受け入れられない事実である。
世界の均衡を保ちながら、己が欲望を達成する。
…それは、もはや『夢』でしかない。
願いの成就を目前にして、自ら手を引き込めるか?…あの時の、小僧のように。
否!それは断じてあり得ない!
…飛王は、ついに自らに掛けた『枷』を外す。
「あれは!!」
飛王が手にしたもの、それは、小狼とさくらの運命を分け隔てる硝子の『筒』だった。
「次元を越え、刻を越え、遺跡で貯えさせた力!
無駄にはせん!!」
飛王は、一縷の望みを一本の『筒』に託していた。
「必ず、必ず蘇らせる!
魔女が消えたなど、そんな現実はあってはならんのだ!!」
次第に狂気に支配されゆく目が、小狼に、そしてさくらへと注がれる。
「もう一度、時間を巻き戻す!おまえの自由を対価にな!
そして、姫の力で魔女が存在する次元を探し出す!
在る筈だ!どこかに、魔女が消えない道筋が!
…それが成るまで、おまえと姫は我が手の中で生きろ!
但し、お互い触れ合えず、声も届かないままに!」
小狼、そしてさくらが放つ無言の視線。飛王は、覆い被せるように
「安心しろ!用が済めば殺してやる!!」
と吐き捨て、二人を攫う魔法を放つ。
だが、二人のそばには、もう一組の『二人』が居る。クロウ譲りの魔力が、彼の邪計を阻む。
「造りものの分際で!!」
飛王は、なお一層の追撃を与える。
砲撃の後、彼はニヤリ、と笑みを浮かべた。…乱れ打ちに放たれた邪術の一つが、『真者』と彼が呼ぶ小狼とさくらの体を捕らえ、着実にたぐり寄せていたからだ。
もがく小狼。…一方、拒む力を持たないさくら。解けない術を前に、為す術のない二人。
ドカッ!
…もう一人の小狼が、小狼に強い体当たりを与える。同時に、もう一人のさくらが、さくらの体を強く引き寄せる。
絶体絶命の状況下。その時、残る二人が執った行動は共通していた。
…二人を救い出す代償に、自ら飛王の魔術の餌となること。
覚悟は、決めていた。それゆえ、身代わりに術に捕らえられた後は、静かに瞳を閉じ、運命に身を委ねようとしていた。
「だめ!!」
そんな二人の手を取ったのは、救い出されたはずの小狼のさくら。声は、それでもなお悲劇の道に自らを追いやろうとするさくらに対して、覚醒したもう一人のさくらが発した初めての言葉だった。
二人を引き戻そうと、奮闘する小狼とさくら。飛王の野望を阻止するべく、飛びかかるファイと黒鋼。…しかし、彼らの願いは、果たされなかった。
「小狼!さくら!」
筒に捕らえられた、『二人の』小狼とさくら。
…運命の軌跡は真円を描かず、螺旋(らせん)の道を辿(たど)り始める。