「!?」
突然現れた、小狼とさくらと全く同じ容姿の二人。その正体は、黒鋼やファイと共に旅をしてきた二人の「写身」であり、そして小狼を産んだ父と母という事実に、驚愕の表情を浮かべる飛王。そして、飛王と対峙する小狼もまた、その事実に声を呑んだ。
状況を察したモコナの目には、喜びの涙があふれる。
「良かった!二人とも戻って来てくれたんだね!!」
「ほんとにおまえら・・・なのか・・・?」
驚きと共に、にわかに信じられない表情の黒鋼が、口を開く。
その言葉に、現れたもう一組の小狼とさくらが、同時に頷く。
動揺する黒鋼を横に、平静のファイ。そんなファイを、黒鋼が問いただす。
「てめえ、まさかあいつらが現れた時から分かってやがったんじゃ…」
「まさかとは思ったけどね。」
「ならさっさと言え!」
「確信なかったから。
…もし違ったら、げんこつじゃ済まないし。」
珍しく取り乱したせいか、少しばつが悪い黒鋼。「ちっ」と舌打ちし、そして二人の方に向き直り、怒鳴る。
「おまえら、二人まとめてぶん殴るからな!」
東京国で、彼らと袂を分かった小狼。インフィニティで、自ら刃に身を差しだしたさくら。…共に旅を続け、互いを理解できるが故に、その喪失感は大きかった。その二人が、再び彼らの前に立っている。
「もう二度と…消えるなよ」
黒鋼が、ぼそりと呟く。
「おまえともうひとりの姫も。勝手に消えんじゃねぇぞ」
それは、黒鋼とファイの、偽らざる本心だった。
黒鋼の言葉にこくりと頷いた小狼は、もう一組の小狼とさくらに視線をやる。温かな瞳の、母であるさくら。そして、穏やかな表情の、父・小狼。…二人の真実が明らかになるほど、小狼には不思議な感覚がこみ上げる。
「…子供でも基になった存在でも、おれの大事な存在に変わりはない」
…そんな彼の頬にこびりついた血糊を、掌で拭き取る父・小狼。二人が並んで立つ姿は、まさしくうり二つである。
そんな彼らの輪から外れ、一人怒りを募らせる男が居た。…他ならぬ、飛王である。
「それは…!」
右手に込められた魔術をみて、小狼が反応する。飛王は、その魔法を構うことなく解き放つ。
…その魔法は、すさまじい衝撃のかまいたちとなって、全てを襲う。
そして、世界の理が、再び砕けちる。異変が、辺りを支配する。
「まわり、止まってる!!」
「…あいつが…止めたんだ」
これまで以上の抑圧感が、彼らを襲う。だが、その中心に立つ飛王は、それまでの高揚感をすっかりと失っていた。
「……次元の魔女が、いない…。」
歩みを止めた、時間。静寂が支配する、世界と次元。彼は、探し求めた。…彼の望みを叶えるべき、存在がいる場所を。しかし、答えは明らかだった。彼は、呆然として、呟く。
「どの世界にも…。
死んだ……のか…」
最も忌むべき事実を口にして、彼は目を見開く。
「認めん!
そんな事は認めんぞ!
魔女は蘇らねばならんのだ!!」
焦燥、狼狽、憤り。飛王は、咆哮する。