渾身の力を込め、二組の小狼・さくらに向けて飛王が一矢を放つ。
激しい、衝撃音。
確かな手応えに、飛王の表情が綻びる。だが、それが再び苦いものに変わるには、時間はかからなかった。
『風華!!』
すかさず家伝である中華式の魔法陣が現れるや、短い呪文が飛王の手を食いとめる。
「小狼!!」
さらに、傍から加勢しようと、ファイが防御魔法を唱える。
拮抗する、両者の魔力。しかし、そのバランスは程なく崩れる。次第に勢いを増す飛王の攻撃が、小狼、そしてファイの守りを切り崩す。
吹き飛ばされんとする、小狼。その手を取り引き戻す、同じ容姿のもう一人の小狼。冷静な対応を取る彼の足下には、それまで彼が用いていたものとは異なる、六芒星をモチーフとした魔法陣があった。
それを見た飛王は、驚愕の表情で叫ぶ。
「その魔法陣はクロウの…!?
いやクロウの魔法そのもの!何故おまえが使える!?」
「クロウが、この子に渡したものだからよ。」
突如、巨大な像を場に写し、侑子が姿を現す。
一連の経緯は、夢の世界で始まった。
飛王の刃にかかった写身・小狼。人の手により創られた存在の彼は、命を絶たれても「死ぬ」のではなく、ただ「消える」定めにある。そんな泡沫の存在の彼を、侑子は躯と宿った心ごと、夢の世界へと運び去る。
そこにはすでに、もう一人の先客が居た。日本国で、花びらとなり『散った』魂、記憶。そして、飛王が写身を創る際に『滅した』、オリジナルの躯。「消えたはずの」もうひとりのさくらが、彼と同じく侑子に連れられ、永い眠りに就いていた。
「何故…、おれたちをここに…?」
彼は、侑子の真意を問う。
彼女は、彼の目を見据えたまま、静かに答えた。
「…選んで。」