トップページデータノートストーリー紹介【ツバサ−RESERVoir CHRoNiCLE−】

Chapitre.218−記憶の破片

 死力。
 巻き起こした旋風と巨大な魔法陣群の中心で、共に守るべき者を障壁の中に入れつつ、魔法を詠唱する小狼の父母。鋭い風は鎌鼬となって魔法陣に衝突し、その形を輝きを帯びた破片へと変える。
 破片。
 それは、それぞれの世界で流れてきた時間、過去、そして記憶。それらが自ずから引き寄せられ、ジグソーパズルが1枚の絵を描くのと同様に、崩壊した世界と理を再び元に戻すべく再構築を始める。
 「出来るのか」
 「あの二人の力は凄い。でも…」
 黒鋼とファイは、なおも半信半疑だった。圧倒的なまでの力を持った、飛王・リード。世界の崩壊は、彼が長い時間を費やして描いた壮大な「シナリオ」だった。その行く手を阻む程の、強大な魔術の持ち主。ファイは、たとえ異世界に居たとしても何故二人の存在を察知できなかったのかが疑問だった。二人が、それまで何処にいたのか。なぜ二人が、小狼・さくらと見た目も装いも同じなのか。
 …彼らは、その答えを知らされる事なく、ただ傍観に徹するしかなかった。
 旋風に乗った破片が、父の腕をかすめる。
 滴り落ちる血。
 「父さん!」と声を上げる、小狼。
 「気を散らすな。」
 長時間の魔力の使用で、すでに疲労の色が見える父が、小狼を一喝する。
 「あの時、決めたんだろう。『それが、やるべき事なら』と。」
 視線を、もう一つの魔力の渦に向ける。その中心で立つのは母、そしてさくら。
 小狼は、答えた。
 「さくらは死なせない。絶対に。」
 揺るぎなき想いが込められた言葉に、母が頷く。
 「見失うな、己の願いを。そしてそれを叶えたいなら、選べ。
  たとえそれが、どんなに辛い選択になっても」
 全てを見通す父の一言に、小狼はハッとする。
 
 しかし、世界の再構築も、近い未来に訪れるであろう選択も、まずは眼前でそれを阻もうとする男がいる。
 「我が願いの成就、決して邪魔はさせん!
  させんぞ!!」
 彼にとってはこれまでの布石を無に帰す企てを、容認できるはずがなかった。
 渾身の力を込めた一撃が、二組の小狼・さくらを襲う。
 相反する二つの願いが、一つの空間に轟き渡る!