侑子が護り続けてきた、硝子製の円筒が砕け散る。
そこから放たれる暗闇が、さくらと小狼を飲み込む。
…そこで広がるのは、夢の世界。そして、小狼とさくらの後ろには、もう一組の小狼とさくら。
「…な…に…」
にわかに理解しがたい状況に、小狼は目を疑った。そして、少しの間の後、彼は一つの答えにたどり着いた。
「…母さんと…、父さん…?」
言葉は、返さない。…ただ、温かな眼差しが、事実を物語る。
慈しみの笑みを浮かべ、小狼の母であるさくらが答えた。
「絶対大丈夫…よ。」
その言葉は『もう一人の自分』、すなわち別世界で生きる、彼女と同じ存在である少女のものだった。その少女は、クロウ・リードが生み出した『クロウカード』の主。稀代の魔術師をも凌ぐ魔力を持つに至った少女は、何も訊かず夢で出会った彼女に一本の杖を手渡す。それは、カードの封印を解き、その力を解放するために必要な『星の鍵』だった。驚く彼女に、少女は言葉を繋げた。
「杖はなくしても、カード達とは一緒にいられるから。
だから貴方も、『絶対 だいじょうぶだよ』。」
それは、魔法の言葉、無敵の呪文だった。どんな困難下でも、どんな苦境でも、自分を信じ、奮い立たせて克服する。短いフレーズには、そんな強い力が詰め込まれていた。
「未来を、運ぶために。」
小狼の後ろに立つ、彼の父が呟く。それに呼応して、二つの魔法陣が現れると共に、と幾陣ものつむじ風が吹きすさぶ。さくらを抱える母は、ファイに目で合図を送る。ファイが魔法を唱え、彼と黒鋼、そしてモコナを守る殻ができたとき、外には大小多数の魔法陣と、一人取り残された飛王の姿があった。
「貴様ら!!」
叫ぶ飛王の表情には、すっかりと余裕の色が消え失せていた。
ぶつかり合う、魔力。2つの力と信念が交錯するとき、もうひとつの変化が生み出されようとしていた…。