小狼が、さくらの左腕を取る。それは、飛王のシナリオ通りだった。
再び彼の懐を離れ、まばゆい光を放ちながら宙に浮くさくらの躰。次の瞬間、幼き彼女の容姿は、彼らと共に旅を続けた頃の大人びた姿へと変化していく。
事の次第が呑み込めない3人。ただ、1つ言える事は、彼らと時間を共にした彼女の躰と、長き間清らかな水と共に時を過ごした彼女の記憶が合わさることで、想像を絶する魔力を持つ存在となりうる事。飛王の狙いは、ここにあった。
「魂を集め、似せた人型に吹き込んでもそれは出来損ないにしかならなかった。
だが次元を刻んだ器、長きにわたって水底で蓄えられた魔力と、
そのどちらもを受け継げる資質を持つ真の存在。
その全てが揃った!」
己が願い。その成就を前に、飛王は饒舌だった。
死者に、再び魂を呼び戻すこと。…最も尊く、そして絶対であるその理に挑んだのは、飛王が最初ではない。小狼が血を引く伝説的魔術師、クロウ・リードがその人だった。しかし、その試みの結果生み出したのは、時間ごと存在を切り取られ、その為に全ての次元からも切り離された存在。…それが、次元の魔女・壱原侑子の真実だった。
宙に浮かんださくらの躰は、なおも光を放ちつつ、次第にそのエネルギーを弱めていく。と共に、彼女の躰が、存在が、透けて見えはじめる。異変を察した三人だが、飛王の掌から放たれた竜巻に、行く手を阻まれる。
「おまえが成し得なかった夢!今、我が手で叶うぞ!クロウ!!」
その頃。日本国、ネガイが叶うミセ。そこでもまた、異変が起きていた。
1つめは、主である侑子にあった。彼女の背中に現れた、鳳蝶の如く美しい蝶の羽。そして、さくらと同じく、光を放ちつつ、その躰が次第に存在を喪いつつあること。
もう1つの異変、それは宝物庫で起きていた。さくらの魂がたどり着いた、硝子製の円筒。それは、彼女の異変に呼応するように、光を放ち始めていた…。