トップページデータノートストーリー紹介【ツバサ−RESERVoir CHRoNiCLE−】

Chapitre.214−最後の鎖

 次元を繋ぐ、鎖の崩壊。その影響の進捗は、砂に水が染むように、早かった。
 鳴り止まぬ、轟音。随所に進展する、次元の亀裂。そして、これまでの物理法則では考えられない、強い圧力の作用。小狼を巡る状況は、刻一刻と不利になっていく。
 飛王と対峙する黒鋼たちが立つ場所も、同様だった。構えを取ることさえ厳しさを増す中、彼は果敢にも飛王に斬り込んでいく。
 しかし、飛王は表情一つ変えることはなかった。
 指先に宿らせた炎を、増幅させる。カウンターブローの準備に、抜かりはなかった。反撃に備え、黒鋼の前に障壁の魔術を施すファイだが、飛王が放つ一撃はそれを貫き、二人を薙ぎ倒す。
 …飛王との実力の差は、歴然としている。
 それゆえ、彼らは賭に出た。
 
 「小狼!」
 叫ぶ、黒鋼とファイ。小狼は、これに応じた。わずかな足場から、底知れぬ水場へ転落する危機。そして、飛王からの奇襲。策の有無は、分からない。それでも、彼は跳んだ。…仲間を信じて。そして、大切な人を救うために。
 彼の決断と時を同じくして、黒鋼とファイは新たな手を仕掛ける。ファイが唱えた魔法弾を、黒鋼の剣撃に載せ、飛王に放つ。その一撃は、彼に直接的なダメージを与えた訳ではなく、隙を生み出す程度だった。しかし、その一瞬は、小狼の背中を後押しするのに値した。
 
 虚ろな表情のまま救いを求める、「運命の日」のさくら。
 長い時と旅路を経て、迷うことなく手を差し伸ばす小狼。
 二人の手が、ついに交わる。
 その手をたぐり寄せ、躰を強く抱きしめる小狼。
 …さくらを、守りたい。その願いが、叶えられた一瞬だった。
 それが、偽りの結末であることを知ったとしても…。
 
 「とったな…、その手を。」
 この結果にも、飛王は動じる事はなかった。
 「おまえのその選択で、最後の鎖が切れた。
  死の間際の者を取り戻そうとしたおまえの想いが、
  最後の選択が同じように死の淵へと歩を進め、その刹那時を止められた者を
  …呼び戻す!」
 
 …小狼、そしてさくら。
 二人は未だ、欲望に染まったシナリオの世界から飛び立てずにいた…。