トップページデータノートストーリー紹介【ツバサ−RESERVoir CHRoNiCLE−】

Chapitre.212−動き出した時間

 「やはり、偽物どもはこの程度か…真者と違って」
 飛王の影武者として、小狼達の刃に倒れたカイル。飛王は薄笑を浮かべながらその躯が消滅していく様子を眺め、そして右腕で抱えたさくらの頬を撫でる。その一言一挙動が、小狼の逆鱗に触れる。
 「!」
 体に電撃が走ったかのように鋭い反応を示し、手にした緋炎で飛王に斬り込む小狼。その時、さくらの躯がふわりと宙に浮く。次の瞬間、彼女の体からエネルギーの渦が放たれる。
 玖楼国。討ち取られた、刺客達の骸。それが、溶けるように消えていく。造形のようにそびえ立っていた水柱は、動きのある滝の姿へと形を変えていく。そして…、「運命の日」の彼女を取り込まんとする闇もまた然りであった。
 「時間が動き出してる!」
 異変を察知したファイ。二人は、小狼に眼前の仇敵との戦いよりも、「選択の場」へ戻る事を促す。あの日、掴めなかった左手を取るために。
 水場へ戻った小狼。飛王が作り出した絶望へ飲み込まれようとするさくらに、手を伸ばそうとした、その時。
 ドンッ…!
 すさまじい衝撃と、轟音が場を包み込む。同時に、3人を待っていたモコナが小狼に叫ぶ。
 「小狼!!サクラの羽根の力、感じるよ!!」
 「あの時の玖楼国には羽根はない筈だ!」
 小狼は答える。
 一方、その一連の光景を見ていた飛王は両手を広げ、歓喜の表情を見せる。
 「遂に来たか、待ち続けていた時が!」
 理を拒み、刻を巻き戻した禁忌。再び進みだした時計の針と共に、次元を渡るという日常ならざる行為を働いた4人。その波紋は、彼らが進む先の未来図のみでなく、過去の歴史をも書き換えた。しかし、これから起ころうとすることは、常識の根幹を揺るがすものだった。
 砂の国、名前の響き、守られた貴重な水。そして、二つにそびえる塔のような建物。飛王が呟いた言葉が指すのは、旅の始まりである世界・玖楼国と、彼らの旅の転換点となった場所・東京国のことだった。決して交わる事のない二つの世界が、重なり合うその瞬間。それが、彼らを待ち受ける「終わりの始まり」だった。