トップページデータノートストーリー紹介【ツバサ−RESERVoir CHRoNiCLE−】

Chapitre.211−焼き付いた笑顔

 嵐のように、場を支配していた写身・小狼が放った魔法。その勢力がやや衰えたとき、黒鋼とファイははじめて事の顛末を知る事になる。
 「ごめんな……さい
  ありがと……  」
 最期の言葉が、二人の耳にも伝わっていく。
 小狼が抱きしめた躯が、あたかも彼らに泡沫の夢を見せていたかのように壊れ、砕け散っていく。
 後には…、3つのものが残った。
 1つめは、写身・小狼の右眼から現れた光の結晶だった。強大な魔力の源であったそれは、元来ファイの瞳に宿された物だった。
 「小狼…君…」
 ファイは、両手でそれを包み込むように拾い上げる。輝きは、塊という形を為した物から魔力というエナジーへと形を変える。魔力を、取り戻したファイ。と共に、彼は失っていた片眼の光を取り戻す。それでも、ファイは呟く。
 「君は…オレに魔力を残して元に戻す為に…ずっと力を使い続けていたんだね。
  でも…、君が帰ってきてくれた方が…すっとずっと良かったよ」
 2つめは、彼らとの旅の途中で手に入れた剣、緋炎だった。片眼が見えない写身・小狼に、剣技を教えた黒鋼。敵対する国に分かれて対峙した修羅ノ国、そして企図せずに黒鋼の過去を知り涙する彼の姿を見たレコルト国。東京国で袂を分かった後も、旅の記憶を残していた彼。…黒鋼は、後に残された剣を手に取り、その柄を握りしめる。
 「…詫びるくらいなら、なんで生き残らなかった。」
 3つめは、さくらを想う心だった。初心を忘れ、羽根という唯物的考えに陥り、結果として同じく写身の存在とはいえ大切な人を殺めてしまった悔恨。そして、それでもなお彼女を想う気持ち。それは、原型である小狼も意を共にするものであった。黒鋼は、拾い上げた緋炎を小狼に手渡す。小狼は、それを力を込めて握りしめる。そこには、志半ばで倒れた彼の遺志を引き継ぐことの誓いであった。
 写身・小狼が、自らの躯を刃で刺し貫かれようとも、渾身の力で放った魔法。それは、玖楼国の水場と飛王が鎮座する次元を結ぶための一手だった。魔力を取り戻したファイは、写身・小狼から託された魔法を発動させる。手負いの飛王が座する空間へ、跳躍する三人。真っ先に敵陣へ乗り込んだ黒鋼が、銀竜で飛王を一刀両断にする。空間に、ほころびが生じる。そして…、そこから出てきたのは、何度も彼らの旅へ介入してきた飛王の配下、カイル。玖楼国で三人が見てきたのは、身代わりとして立てられた彼の姿であった。
 「…この為…に……側に……」
 崩れ落ちるカイル。その背後で、不敵な笑みを浮かべて立つ飛王。彼は、カイルが口に出来なかった言葉の続きを補う。
 「…置いていたのだが、身代わり程度にも役に立たなかったな。」
 自らの望みのためには、他人の道筋を歪め、敵・味方関わりなく流血を強いた飛王。そして…、その彼の腕で横たわるのは、日本国で敵に攫われた、さくらの姿だった。
 「飛王…飛王…!!飛王!!!!」
 溢れ出す、感情。仇敵を前に、小狼の咆哮が響き渡る…!