トップページデータノートストーリー紹介【ツバサ−RESERVoir CHRoNiCLE−】

Chapitre.207−進化する化身

 周囲の喧騒を横目に、そこには静かな、しかし張り詰められた空気が漂っていた。
 「…今度こそ、終わらせる。」
 「そうだ。ここで…終わらせる。」
 小狼に呼応して、呟くもう一人の小狼。この邂逅を、共に最後のものにする決意だった。
 先に間合いを詰めたのは、小狼だった。父から引き継いだ中国剣を、渾身の力を込めて写身小狼の頭上に振り下ろす。しかし、その剣筋は見切られ、受け止めた太刀を右手でいなしつつ、左手でファイ譲りの魔法を発動する。
 「!!」
 すんでのところで間合いを取る小狼。だが、写身・小狼が放つ雷撃は、的確に小狼の身を捉えた。小狼は『風華』の術で辛うじて直撃を免れたが、その威力までは抑えきれず、遺跡の壁に叩きつけられる。
 「…おまえのさくらの願いは、届かなかったのか」
 日本国での悲劇を経て、なお迷いなく刃を振るう写身小狼。一度ならず二度までも、彼は小狼が託した一縷の望みに応じる気配は、全くなかった。それどころか、手負いの小狼に対して容赦なく第二撃を放つ。
 「雷帝、招来!」
 身を躱ししつつ出した、渾身の一撃。
 「火神!」
 振り絞るようにして放つ、死力の一手。
 しかし、小狼の声だけでなく攻撃もまた、写身小狼の元へ届く事はなかった。
 絶体絶命。その様子を、ほくそ笑む男が一人居た。
 「確かに、右目の魔力は使えば使う程強くなっているな。」
 東京国で一行の元を離れ、様々な次元で羽根を奪い取って来た写身小狼。その「進化」もまた、飛王の『意』に沿ったものであった。