幼き頃に、選んだ道。ただ一人、さくらを守るために、生きる。その事が、どれだけ難しく、重いことなのか知らないまま…。それでも、叶えようと足掻いた。しかし、運命は小狼に一縷の望みも与えぬまま、二人を運命の日へと導く…。
小狼、ファイ、黒鋼。三人が立つ水場のほとりに、小狼とさくらの両親である国王と神官が立つ。暗澹たる面持ちの、小狼。この日、これから始まる、さくらの成人の儀。それは、彼女に植え付けられた禍の卵が、孵化する瞬間を意味した。
清らかな音を響かせながら、斎場に足を踏み入れるさくら。式服をまとったその姿に、彼は目を奪われる。
「来てくれてたんだ。」
嬉しそうな声の、さくら。その笑顔に釣られて、表情を和らげる小狼。
「おめでとう。」
その祝いの言葉に、彼女の表情はますます華やぐ。うれしさ、よろこび。その想いが彼女の顔に花を咲かせたとき。それが、最後の引き金だった。
刻印は実体化し、羽根の紋様は刃となる。災いの翼は、目覚めと共に、寄生主の躯を八方に貫く。
死が、現実となる。
その数瞬先の先の未来を、少しでも食い止めようと、母は立つ。
…時間が、止まる。彼女の全ての力と、自らの身を引換に。
目の前で、崩れていく現実。
脳裏で繰り返される、後悔にしかならない「あの時」の選択。「あの時」に戻れたら、おれは………。
その瞬間、闇から魔の囁きが響く。
「…その願い、叶えてやろう。」