トップページデータノートストーリー紹介【ツバサ−RESERVoir CHRoNiCLE−】

Chapitre.189−受け継がれし覚悟

 あの日のさくらを、取り戻すために。
 ここで、対価を支払い、時計の針を巻き戻した『小狼』の物語を話そう。
 幼き少年の姿で、日本国の「願いを叶えるミセ」へと足を踏み入れた小狼。中にいるのはマルとモロ、そして侑子。艶めかしい脚を放り出しながら、彼女は少年に「貴方がここを訪れることは、必然だから」、と言う。名前を問うた侑子に、少年はこう答えた。
 「・・・李 小狼」
彼女はそれが、父と同じ名前であり、偽りのものであることを知っていた。彼女は少年の母のことも知っていた。「さくらちゃん」−逢ってはいないというものの、彼女の表情は旧友のことを語るかのようだった。
 願いは…、と尋ねる侑子。だが、返ってきた答えは短かった。
 「ない。願いがあるなら自分で叶える。」
 少年は、父に言われたままこの場所に来た。母が夢で視たという、「彼を待つ人がいる」という、ここではない異なる世界へ行くために。
 「おれに出来ることがあるなら、やる。」
 その言葉を聞いた彼女は得心した面持ちで、彼を異世界へ送り出す用意を始めた。
 侑子はすでに、異世界へ渡るための「対価」ももらっていた。倉庫で眠る、星の杖。それが少年の母が渡したものだった。
 
 移動した先は、玖楼国の潔斎の間。
 清浄なる水を蓄えるその空間に、その少女は立っていた。