トップページデータノートストーリー紹介【ツバサ−RESERVoir CHRoNiCLE−】

Chapitre.176−動かぬ躯

 強大な魔力によって放たれた一撃によって打ちのめされる『小狼』。同時に、彼がさくらに施していたバリアも解ける。
 夢の世界での異変は、日本国でも窺い知ることができた。さくらが取り込まれた神木を、二つに分け隔てんとする亀裂が走る。外の世界に居る者達は、ただ祈る以外無かった。
 意識を失った『小狼』にとどめを刺すべく歩み寄る小狼。飛王の傀儡と成り果てた彼に、さくらの声は届かない。手にした剣を彼女に向ける小狼。その鋒は、やがて彼女の柔肌に突き刺さる。飛王のねらいは、時空を記憶することができる彼女の「躯」。彼女の本質である魂に関心はない。それゆえ、小狼にもためらいが無かった。さくらの肩に突き立てた剣を、躊躇無く引き抜く。吹き出す鮮血。次に小狼はその刃を上段に構え、彼女の頭上をめがけ振り下ろす。
 だが…、その剣はすんでの所で寸止めされる。いや、振り下ろすことができなかった。「…何故、動かない」小狼は一人、つぶやいた。
 その様子を異世界で見ていた侑子ともう一人のモコナ。彼女たちは知っていた。…心が忘れても、躯が覚えていることもあることを。