トップページデータノートストーリー紹介【ツバサ−RESERVoir CHRoNiCLE−】

Chapitre.92−本の国の少年

 図書館にいたはずの小狼だが、黒鋼から手渡された本を開けた瞬間、気がつくと、辺りの景色は一変していた。周りにいたはずの守るべき人も、ともに旅してきた仲間も居ない。変化があったのは、それまで何も書かれていなかったはずの本に、なにやら記されていること。小狼がページを繰ると、景色は元のものと異にするのだった。
 
 緑生い茂る佇まいを見せる庭園と、大きな屋敷。巨木にぶら下がる男の子。「あっ」と思わず声を出した小狼だが、周囲はそれに気づかない。どうやら彼の存在は感知されないようだ。
 屋敷に戻った少年。彼を迎える父母。黒鋼に似た父は、日本国・諏倭の領主。ちょうど領地の見回りと魔物討伐を終えて帰ってきたところのようだ。母は亭主を支えるよい妻であるとともに、優しさを兼ね備えた良妻賢母。この国は彼女が作る結界で守られているらしい。二人の間に生まれた少年は、腕白盛り。負けん気が強さは父譲りだ。
 そんな光景を見ながら、手にした本のページをめくると、またも風景が変わる。馬で草原を駆ける少年。そして、父と剣の修行に勤しむ少年。小狼は気づいた。ここが、本の中の世界であることに。